2012.9.16 |
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正面の理、側面の情
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ホイチョイ・プロダクションズの心に響く言葉より…
東日本大震災による福島第一原発の水素爆発の後、東京電力に乗り込んで幹部たちを怒鳴りつけ、「原発から撤退したら東電は潰れる」と恫喝したのは、菅直人である。
理屈から言えば、怒鳴られて当然の所業を繰り返していた東電幹部を怒鳴りつけた菅首相の行動は、間違ってはいなかったのだろう。
だが、叱責や責任追及は、後でいくらでもできる。
火急の目的は、原発事故の収束だったはずである。
これが、秀吉なら、東電に対してたとえどんなに腹を立てていたとしても、手土産に日本酒と肴(さかな)を持って行き、彼らと酒を酌(く)み交わしながら「おまえたちが頼りだ、頑張ってくれ」くらいのことは言ったに違いない。
『21世紀臨調』の特別顧問を務めた中坊公平が、こう言っている。
『人を動かすのは、正面の理、側面の情、背面の恐怖、の三つだ』
人間、若い間は「正面の理」しか見えていないものだ。
だが、実社会で経験を積むうちに、いつしか、人間を動かすのは、「理」よりもむしろ、多くの場合「情」や「恐怖」の方だということを思い知らされる。
そして、その「情」を動かすための最短距離の方策が、「戦略おべっか」なのだ。
「戦略おべっか」とは、得意先や上司に対し、自分に有利な判断を下させるため、「理」を超えて「情」に働きかけるための、具体的な「気くばり」の方策である。
菅直人は、秀吉以来の「おべっか」で人を動かす政治手法を露骨に敵視してきた。
田中角栄に代表されるかつての自民党政治は、プランニングや調査といった「理」よりもむしろ、「気くばり」で人を動かし、ものごとを進めてきた。
平時ならば「理」も通ろうが、土壇場で人間を動かすのは、「情」の方だ。
国を左右する未曾有(みぞう)の危機に、日本人が、「理」だけの首相を選んでしまっていたことは、皮肉というほかはない。
『戦略おべっか』講談社
秀吉は、「人たらし」と呼ばれ、「戦略おべっか」の達人だった。
「人たらし」、の本来の意味は人をだますことだが、人懐(ひとなつ)っこくて、相手を味方につけるのが上手な人のことでもある。
同様に、「おべっか」も、人の機嫌をとったり、へつらうという悪い意味で使うが、ここでの「戦略おべっか」は、意図して行う気くばりや、人を喜ばせたり、サプライズすることを言う。
人は、崖っぷちに追いつめられたときは、「理」ではなく「情」で動く。
「情」は時代を超えてなお、人を動かす最大の感情だ。
殺伐とした現代、今こそ、この「情」や「気くばり」を身につけたい。 |
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