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2012.8.1

見切り千両

岡野工業の岡野雅行氏の心に響く言葉より…

一つ当たった製品に特化して規模を拡大すると、人件費も設備費も何もかも急激に拡大する。
だから逆に、守りに入らざるを得なくなるんだ。

ところが、俺が儲けだしたら他のやつらも黙っちゃいない。
必ず同じような製品を造り出して、必然的に価格競争に捲き込まれる。

人も雇って工場も機械も増やしているところに値段が下がっていったんじゃ、いずれ立ちいかなくなるのは目に見えている。

うちもそういう道を辿(たど)っていたら、一時はメーカーとして儲けただろうけど、間違いなくバブルあたりで潰れていたはずだよ。

こんな簡単なことは経営学の教科書にも載っているはずだけど、目の前にニンジンをぶら下げられると、みんなそっちに走ってしまうんだ。
一つ成功すると、それにしがみつきたくなるのが人間だから。

「まだこんなに儲かっているのに手放すなんてとんでもない」って。
儲けて浮かれていたのが、気づいたら1年後、2年後には見る影もなくなってたってケースを、俺はごまんと見てきたからね。

だから俺は、どんなに苦労して作ったプラントでも、価格競争が起こる前に見切りをつけてプラントごと売っちまうんだ。

せっかく開発した技術だからといって、もったいないなんて考えない。
欲しいってところに気持ちよく譲ればいいんだ。

「見切り千両」は俺の鉄則だね。

だから、俺の会社は大きくしない。
岡野工業が社員5人だって知ると、たいがいの人がびっくりする。

もっとも、5人や6人で小さい会社をずーっとやっていくのも努力が必要なんだ。
みんなは大きくするのに努力するんだろうけど、俺は、この小さい規模を保つのに努力してるんだ。

誰だって高校時代の身体に戻りたいと思っても、まず戻れないのと同じで、高校時代の体型と目方を死ぬまで守るっていうのは、これはこれで大変なんだよ。

人間だって食えばデカくなる。
会社だって放っておくとすぐ大きくなる。
それをさせないでおくというのは、それほど簡単じゃないんだ。

みんなは食べるだけ食べて排泄しないでいるから、太って、便秘になってしまうんだよ。
多くの会社は俺から言わせりゃ、便秘状態のメタボなんだよ。

「この仕事でずっと儲けるぞ」って一つの成功体験を抱え込んでしまって、便秘状態になってるんだな。
便秘になって、同時に太る。
規模が大きくなって、贅肉(ぜいにく)ばかりついて身動きが取れなくなってしまうんだ。

だけど俺は食べたらすぐに外に出しちゃう。
いつもスリムでいられるから、自由で小回りが利くんだ。

『俺の感性が羅針盤だ!』こう書房


会社は方向性によって、行く道が決まってくる。
ほとんどの会社が目指す方向は、規模を拡大するという成長戦略だ。

しかし、大きくしないという方向性をとる会社もまれにある。
それは、何百年と続く老舗の旅館だったり、和菓子店や、飲食店などだ。

それら長く続く老舗は、創業時と規模こそ同じことが多いが、当時と同じ商品や、同じやり方を守っているかというと、そうではない。
むしろ、時代に応じ、変化しているからこそ、生き残っている。

「不易流行」という俳句の松尾芭蕉の言葉がある。

「不易」という、不変の鉄則として変えてはいけない本質的なものはあるが、「流行」という、時代とともに絶えず新しさを追究していかなければ生き残れない。

会社も個人も、贅肉を落とし、いつまでもスリムでありたい。



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