2012.7.6 |
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老紳士と給仕
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小山薫堂氏の心に響く言葉より…
シェフやソムリエはメディアでスター扱いされるのに、
メートル・ド・テル(給仕長)にスポットが当てられることは少ない。
僕は常々、「旨い」と言う感覚を突き詰めていくと「感情移入」にたどり着くと思っている。
料理を作った人、使われている食材、目の前の一皿にどれだけ感情移入するかで味は変わってくる。
母の手料理が旨いのも、愛妻弁当が旨いのも、そういうことなのだ。
とするならば、シェフが心を込めて作った料理を客まで運び、
それをプレゼンテーションする給仕の役割は非常に重要である。
料理の数を鑑みても、給仕はソムリエ以上に重要な仕事かもしれない。
現存する日本最古の西洋式ホテル、日光金谷ホテルのダイニングルームで、こんなことがあった。
ひとりの老紳士が家族と孫を引き連れて現れ、
どうしても一番奥の窓際の席で夕食を食べたいと給仕に伝えた。
理由を尋ねると、老紳士は廊下まで給仕を連れ出し、そこに飾られている写真を指さした。
それは、一組の家族がダイニングルームで撮影した昭和初期の記念写真だった。
「ほら、ここに写っている髭の男性が私の祖父です。
そしてここにいる小さな男の子が私です」
その小さな男の子が、年を経て、自分の家族を連れて戻ってきた。
写真と同じテーブルで食事をし、記念撮影をしたいと言うのだ。
残念ながら、その日はどうしてもそのテーブルを空けることができない。
給仕は老紳士を別のテーブルに案内し、社長のもとに走った。
そして再び戻り老紳士にこう伝えた。
「大変申し訳ございませんが、後日もう一度、ご足労いただけませんでしょうか?
時を超えた家族の思い出を、私どもからプレゼントさせていただきたいのです。
本日はその予行演習ということで…」
給仕からの提言により、社長は交通費、宿泊費も含めた招待を決めたのだった。
“幸せの哲学 48 「給仕という仕事」”
『DIME 2012年14号』小学館
時を超え、長い時間が過ぎたとしても、忘れられない思い出というものがある。
それが、家族で一緒に過ごした子どもの頃の情景。
どこかに連れて行ってもらったこと。
食事をしたり、泊まったりしたこと。
笑ったり、大騒ぎしたこと。
店やホテルが、長く続くということは、大事な役割がある。
親が通い、子どもが通い、そしてその孫が通う。
日本には、千年以上続く老舗(しにせ)が7社ある。
200年以上は韓国ゼロで、中国9、インド3に対して、日本はなんと3000もある。
世界に7000あるといわれる200年企業のうち、実に半分近くが日本に集中しているという。
100年以上は世界の中でも断トツの10万軒以上にのぼる。
親子代々の思い出を大切にするお店やホテル…
どんな風雪にも耐えられる、長く存続する会社をつくりたい。 |
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