2012.6.8 |
|
ドアは笑って開けてください
|
|
永六輔氏の心に響く言葉より…
映画評論家の淀川長治さんが、晩年、背筋をちょっと痛めて入院したとき、お見舞いに行きました。
すると病室のドアに便箋が一枚張り付けてあって、淀川さんの字で、
「このドアを開ける人は、笑って開けてください」
と書いてあります。
ぼくはいかにも淀川さんらしいなと思いながら、にっこり笑って「こんにちは」と部屋に入りました。
そうしたら、ぼくの顔を見た淀川さん、
「あんたはいいの」
「え?だって、笑えって表に書いてあるじゃない」
淀川さんがいうには、あの張り紙は看護師さんに向けて書いたんだ、と。
看護師さんはとにかく忙しい。
仕事もきつい。
だから顔つきがとんがったり、角ばったりしがちになる。
なかなか笑顔というわけにはいかない。
だけど看護師の表情が硬いと、患者はそれでなくとも気持ちが沈みがちなのに、
何か悪いことがあったんじゃないかと、余計な心配をしがちになる。
看護婦さんがパッと笑顔で入ってきてくれるだけで、どれだけホッとするか。
それで淀川さんは、部屋のドアに張り紙をした。
そうしたら最近になって、やっと笑顔で入ってくれるようになった、というわけです。
で、淀川さんの部屋を出たあと、ナースセンターに寄ってみたら、
「永さん、あそこに張り紙がしてあったでしょう?見ました?」
と師長さんに聞かれました。
「ええ、見ました。看護師さんが笑うようになったって、淀川さん、いってましたよ」
「そうなんです。淀川先生以外の病室に行っても、看護師たちが笑うようになったんですよ」
そういって師長さんは、嬉しそうに笑いました。
便箋一枚に書かれた張り紙が、看護師さん全部を笑顔にした。
看護師さんが笑顔になると、病室全体がなんとなく明るくなった。
『日本に生まれてよかった!』(永六輔&ケン・ジョセフ)徳間書店
面接などをするとき、第一印象はドアを開けて入ってきたときの表情。
とびっきりの笑顔で入ってきたら、部屋全体がパッと明るくなる。
セールスの人も、感じがいい人は同じだ。
明るく元気な声と、笑顔がある人とは、何にか話をしてみたくなる。
「一笑 一若 一怒 一老」
一つ笑えば、一つ若くなり、一つ怒れば一つ老け込んでしまう。
一つ笑えば、自分もまわりも、一つ元気になる。
「ドアは笑って開けてください」
全てのドアの前に、この張り紙がある気持ちでドアを開けたい。 |
|
|