2012.5.2 |
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アー・ユー・ハッピー?
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矢沢永吉氏の心に響く言葉より…
1998年、オレはオーストリアで被害総額30億円以上という、とんでもない横領被害に遭った。
犯人は長年、一緒に仕事してきたオレの部下だった。
事件はオレにとって大きかった。
金額の問題じゃない。
とにかく精神的ダメージが大きかった。
どーんと胸に空洞があるみたいになった。
ショックだった。
だってそうじゃないか。
犯人は側近中の側近だ。
やつらが共謀してオレを裏切ったんだ。
背任、横領、公文書偽造。
やりたい放題だった。
しかも、10年間にわたって。
「矢沢がやられたよ、だまされちゃったよ、大借金くらっちゃったよ、あいつバカだよな」
結局、マスメディアが言ってることはこれだけだった。
オレは、負けるわけにはいかない、と思った。
「こいつら、待ってるんだろうな、オレが破産するのを。こいつらにいい思いさせたくないな」
こいつらっていういのは、「他人の不幸は蜜の味」と思っている連中だ。
すると、どうする?
何が何でも借金を片つけなきゃいかん。
「あの男は落ちねえな」と思わせるところにいかなきゃオトシマエがつかないだろう。
オレが引かない理由?
プライドもあるだろう。
このまま尻尾を巻いたんじゃ、あまりにもシャクだよな。
でも、それだけじゃない。
もっと上から見てみたら、本当に負けちゃいけないって思えるんだよ。
このままじゃ、世の中に正義ってもんがないってことになる。
「真実もクソもあるかい。おもしろければいいじゃん」ってやつばっかりのさばったら、人間社会は終わる。
いくら腐っても、どっかのところでは、誰が悪いのか、
何がどうなているのかは、きっちり白黒つけなきゃいかん。
うちの女房はいいことを言った。
「あなた、FやKを憎んだところで、今さら消えたお金と時間が返ってくるわけじゃない。
やらなきゃいけないことは、ほかに山ほどあるわ。
かわいそうなヤツらだと思って、こっちからパスしちゃいなさいよ。
あんまりあの人たちを憎むことにかかわらないほうがいいわ。
憎んだら、あなたまで持っていかれちゃうわよ」
そうだよな。
「世の中はみんな盗人だ」と思って、いつもピリピリしてたんじゃ、いい音楽はつくれない。
オレはだまされた自分のことがいやじゃない。
この純粋バカさ加減の矢沢がきらいじゃない。
そういうオレは甘ちゃんかもしれない。
でもオレはそれでいいと思っている。
長い年月で、どっちが悲しい思いをするだろう。
オレじゃない。
オレを陥れるヤツのほうが、悲しい思いをする。
オレは絶対そう信じている。
これは負け惜しみじゃなくて、そう思う。
人間はいつか死ぬ。
だんだん年をとって、体もゆうことをきかなくなってきて、ふと若いころを振り返ったとき、
信頼してくれている人間を陥れたことがあるなんて思い出したら、それは気持いいもんじゃないよね。
負債と取り立て。
こいつは苦しい。
でも、オレは負けない。
何歳まで生きられるか知らないけど、オレは役を与えられたんだ。
矢沢永吉という役を。
「そうだよなあー。ケツまくって生きるのもスジか」と思って、でかい口あけて笑えるようになった。
オレは歌える。
借金を返すのに何年かかるかなんて、そんなもん、たいしたことない。
死んだらほんとのおしまいなんだよ。
やっぱり。
『アー・ユー・ハッピー?』角川文庫
矢沢永吉はその事件後、6.7年で借金を完済した。
1人で30億円を、だ。
矢沢永吉は、1949年生まれの62歳。
29歳の時出版した、『成りあがり』という本の中でこう言っている。
「50になってもケツ振ってロックンロールを歌っているような、かっこいいオヤジになってやる」
人生は、誰もが役割を与えられて、この世に生まれてきた。
だが、楽しい役ばかりではない。
たった一回の人生という舞台。
どうせ演じなければいけないのなら、逃げずに、かっこよく演じてみたい。 |
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