2012.4.13 |
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伊達者
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本田大三郎氏の心に響く言葉より…
かつて、スノーボードのある選手が、ジャパンのユニフォームを着くずしたスタイルで
空港にあらわれ、ひんしゅくを買いました。
そのあとのふてくされた態度も悪かった。
団長のとりなしで、何とか事はおさまったものの、騒ぎが影響したのか、
予選の一回戦で敗退してしまいます。
彼のようなふるまいは、トップをとる選手に往々にして見られます。
ちょうど戦国武将が相手にはったりをかますために、
突飛な行動やド派手なかっこうをするのと似たところがある。
私はこのはったりを一概に否定するものではありません。
トップをねらうぐらいの野望を持つ人間は、あえて世間をあっと言わす大胆な行動をとることもある。
当然、批判も受けますが、それをバネに自分の強さに変えていけばいい。
ただ、私が言いたいのは、大胆さだけではダメだということです。
彼とよく似たふるまいで、周囲を驚かせた人間に、レスリングの伊達治一郎という選手がいます。
彼はモントリオールオリンピックで見事金メダルを取っています。
その伊達が成田からアジア選手権にコーチとして出発するさい、
空港に短パン、ゴム草履というあっと驚く姿でやってきました。
そもそも現役時代から、伊達は奇抜ないでたちで目立っていました。
ヘアスタイルはほとんど丸坊主にして、首の後ろの部分だけを残す独特なもの。
「伊達カット」といわれて、当時のスポーツ少年たちはみな真似したがったものです。
伊達は服装や髪型のことでコーチや監督から注意を受けても言うことをきかない。
肩で風を切って歩いているような選手でした。
ただ伊達がすごかったのは、そういう大胆さだけでなく、繊細さももちあわせていたことです。
空港には短パンでゴム草履であらわれても、表彰式やレセプションなど公式の場には完璧な服装であらわれる。
それこそブレザーからシャツ、ネクタイ、靴に至るまで一分の隙もない。
その気配りたるや、場なれしたヨーロッパの選手たちも舌を巻くほどでした。
大胆さの裏側には、誰も真似できないほどの繊細さももちあわせていた。
『本田の男は骨で闘う』あさ出版
かつて、日本では、独特な美意識をもち、派手な格好で常軌を逸した行動をする者たちが多くいた。
その者たちを、「婆裟羅(バサラ)」と呼んだり、「伊達者(だてもの)」、「傾奇者(かぶきもの)」と言ったりした。
その代表的な人物が、婆娑羅では、佐々木道誉。
伊達者は、伊達政宗。
傾奇者では、前田慶次郎が有名だ。
前田慶次郎は、秀吉の御前に呼び出されたとき、マゲを横に結い、秀吉の方にではなく、
顔を横に向むけて平伏したという。
普通なら、無礼者、と切られるところだが、秀吉はそれを喜び、褒美に馬を与えたという。
そこで、慶次郎はしばらく時間をもらい、今度は髪を結いなおし、正式な装束に着替えて、馬を受け取ったという。
秀吉はその一連の行動をいたく気に入り、「天下御免の傾奇者として意地を通せ」と、公認したという。
時の権力や権威に対して、意地を通したり、奇抜な服装や奇矯(ききょう)な行動をとることは、
当時は命がけだった。
だが、彼らは、その反骨心を貫くと同時に、繊細な気配りがあったからこそ、命を永らえることができた。
実力がなくて目立とうとするなら、ただの空(うつ)け者だ。
真の実力と繊細さを、同時に合わせ持つ傾奇者には、限りない魅力がある。
普段はどんな服でいようと、いいレストランには、ちゃんとした服装で行く人は格好いい。 |
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