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2012.4.3

天地自然の理に従う

松下幸之助翁の心に響く言葉より…


私は、生来、どちらかといえばいわゆる蒲柳(ほりゅう)の質(たち)といわれるような虚弱な体質でした。
満18の年に仕事の過労がたたったのか、ついに血タンを吐くような事態に陥りました。


当時の私は、電灯会社に勤めておりましたが、給料は日給ですし、今のような社会保障制度もありません。
ですから勤めを休めばたちまち食うに困る、
養生しようにも養生しようがないというせっぱつまった状態に追いこまれたのです。


そこで、こうなった以上もうなるようにしかならない、と度胸を定めて、可能なかぎりの養生をしようと考え、
3日働いては1日休み、1週間出勤しては2日家で休むというような生活を続けました。


ところが不思議なことに、そんなことを1年半ばかり続けているうちに、病気の進行が止まってしまいました。
特によくなったわけではありませんが、悪くもならないようになったのです。


ギリギリの線に追いやられて、一種の諦念(ていねん)をもち、その上に立って体と病気を
大事に扱ったことが、幸いにもよい結果をもたらしたのではないかと思います。
その後、私は自分の体が弱いということも一つの動機となって、会社を辞め、
独立して商売を始めたのですが、40すぎぐらいまでは、寝たり起きたりの状態で仕事を進めていました。


そして若いころはとても50歳まではもつまいといわれていたのに、今日、85歳を迎えるようになりました。
そんなことから考えますと、私はいわゆる病弱と寿命とは別だということをつくづく感じます。


一人として同じ顔をした人がいないように、もって生まれた体の強弱もみな違っています。
ですから、弱い人は弱いなりに、これに順応した生活態度をとるならば、
頑強な人とはまた違ったかたちで十分な社会活動もできるし、長寿も保てると思います。


つまり、みずからのもって生まれた資質というものを素直に承認して、
それに応じた姿で体を大事にすることこそ大切ではないかと思います。


私の場合、そうせざるを得なかったわけですが、それがいわば天地自然の理に従うということであり、
これは健康に限らず、何にでもあてはまることではないかと思っています。


『経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』PHP文庫



病気や困難に挑戦し、立ち向かうという姿勢の人と、素直にその状況を受け入れ、
共存していくという考えの人がいる。
病気を受け入れて、病気と共存するというのは、決して後ろ向きな考えではないし、
投げやりになるということでもない。


「来る者拒(こば)まず 去る者追わず」という淡々とした悟りにも似た心境だ。


病気に立ち向かうという姿勢は、病気にケンカを売っているようなもの。
相手を徹底的に叩きのめそうとすれば、相手は必死になって向かってくる。
つまり、病気も困難も、ますます強くなり、解決がさらに難しくなる。


「目には目を、歯には歯を」という、復讐にも似た強烈な対応より、
「淡々と素直に受け入れる」という姿勢の方が、より東洋的で天地自然の理にかなっている。


病気や困難の時は、激しく動かず、時期がくるまでじっくり実力を貯え、英気を養い、動かないこと。
ジタバタせずに運気をためれば、必ずいつか幸運がやってくる。



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