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2012.2.17

焼鳥屋の修行

『思わずほほえむ いい話』の中から、心に響く言葉より…

「もう宮仕えはたくさんだ」と言って、夫は焼鳥屋の修行を始めました。
あるメーカーの、経理課長を務めていたのですが、自分の未来も頭打ちだろうと思ったのでしょう。
退職金を資金にして、一国一城の主(あるじ)を目指したわけです。

これまで、のんびりと専業主婦をしていた私にとっても、
それは晴天の霹靂(へきれき)とも言うべき大事件でした。

人件費を抑えるために、家族が協力して働かなければ、
利益を上げることはおぼつかないと、その道の先輩に言われたからです。

できることならば、どこかの会社にはいってもらいたかったのですが、
夫の決心は固く、私の言うことなど聞く気配もありません。
そんなわけで、夫は新しい道へと転進を計ったのですが、張り切って出かけたのは最初のうちだけでした。

客として焼鳥屋へ行っていたときは簡単そうに見えた仕事が、意外にむずかしかったからです。
下ごしらえから始まって、客の応対、勘定書の記入など、
なんでも一人でこなせるようにならなければ、店は始められません。

それにも増してがまんならなかったのは、
自分よりはるかに若い人から教えてもらわなければならないということだったようです。

なにしろ、課長という肩書がありましたから、数人の部下もいました。
それなりに人の上に立っていたのですから、夫がそういう気持になるのもムリはありません。

当たり前と言えば当たり前のことですが、はじめてのことをまえにしたら、
一人の無知な初心者なのだということに気づくか気づかないかが、その分かれ道になります。

いつも部下を指導する立場にいた人が、
「娘のような年代のインストラクターに怒られたり、励まされたりしています。
パソコンを習い始めてから、久しぶりに冷や汗をかいたり、バカにされたりして、
謙虚になることの快感を味わいました」
と言っているというのを読んで、夫はようやく気づいたようです。

何か吹っ切れたようになって、修行にも身がはいるようになり、
ようやく、店を出しても大丈夫だという許可がおりました。

いまはまだ、「自営業」と書くより「主婦」と書くほうが、しっくりくるような気がしている私ですが、
二人で協力しながら、第二の人生を歩いて行きたいと思っています。
(横浜市・自営業・45歳)

『思わずほほえむ いい話』(多湖輝監修)PHP


他人の仕事は簡単に見える。
特に、居酒屋や、飲食業などは、お客としていく回数も多いので、自分がやればもっとうまくやれる、
と錯覚してしまうようだ。

どんな商売でも同じだが、その業界に入ってみれば、その厳しさがわかる。
一見簡単そうに見えるものほど、その裏には、見えないノウハウや、コツが隠されていて、難しいものなのだ。

何かを習うときの心構えは、今までの肩書とかプライドとかいったものを一切捨てること。
「この俺が、なぜこんな若造から…」という「我(が)」が少しでも残っていたら、
人様から教えてもらうことなどできない。

「生涯一書生」(しょうがいいちしょせい)
生きてるかぎりは、学び続ける人でありたい。



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