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2011.11.3

どんな小さな企業にもチャンスはある

佐藤正忠氏の心に響く言葉より…

ある夏の夕方だった。
私は、ソニーがまだ東通工といっていた時代に、社長の井深を訪ねたことがあった。
盛田昭夫は副社長をしていた。

用件が終わって帰ろうとすると、井深は、
「まだいいでしょう。お茶でも飲んでいらっしゃい」
といった。

井深は胸に名札がついた作業服を着ていた。
時刻はまだ5時を過ぎたばかりで、外は明るかった。
私は他に用事もなかったので、井深の言葉に甘えて腰を下ろした。

井深はそのとき、こんなことを話した。
「ねえ、佐藤さん。
ウチはまだちっぽけな会社ですが、あと30年もしたら、きっと東芝や三菱電機を抜いてみせますよ」

東芝、三菱といえば誰でも知っている大企業である。
一方、東通工は誰も知らない町工場にちょっと毛がはえたようなものである。
私は井深にその理由を尋ねた。

すると井深は言下に、
「夕べは僕も副社長の盛田君も、いやスタッフ全員が夜の11時までは仕事をしていました。
今夜も10時くらいになると思います。
いいですか、いま頃三菱電機や東芝の役員さんたちは、お揃いで赤坂や新橋に遊びに行っていると思います。
そうすると、一日に五時間はあの人たちより僕たちのほうが働いている。
1日五時間、1ヶ月でざっと150時間です。
一年で何時間になるでしょう」
といって笑ったのである。

確かにその通りなのである。
しかし正直いって、そのときは内心、まさか、と思っていた。
ところがそれから早くも数年後の40年の大不況時に、東芝、三菱電機といった大企業が、
軒並赤字に転落してしまった。
反対に、ソニーと名称を一新した東通工は大躍進をしていた。
井深の予言は見事に的中したのであった。

『君は生き方をもっているか』タツの本


企業や事業の成功にマジックや奇策はない。
人より多く考え、多く努力した者が勝つのが世の常というものである。

まれに、努力もなしにラッキーで成功する人があるが、それは長くは続かない。
人より倍(ばい)、成功したかったら、ニ倍、三倍努力するしかない。

そうやって、あのソニーも成功したのだが、どんな企業でも大きくなればそこに、慢心という落とし穴がある。
それは、傲慢や、おごり、思い上がり、気のゆるみでもある。

だからこそ、どんな小さな企業にも、零細商店にも、成功できるチャンスは必ずあるのだ。
とくに、多くの企業が業績を落としている混沌(こんとん)とした現代においては。

「積小為大(せきしょういだい)」という二宮尊徳翁の言葉がある。
大きなことを成し遂げようとするならば、小さなことを疎(おろそ)かにしてはいけない。
小さなことの積み重ねこそが、大きな成功につながる、ということだ。

人より多く努力することしか他に成功の道はない、と覚悟を決め、
倦(う)まず、弛(たゆ)まずの努力を重ねたい。



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