2011.9.27 |
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相手をナメてはいけない |
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ボブ・グリーン氏の心に響く言葉より…
フロリダ州の『ラスパーダ・オリジナル・ホーギーズ』というサンドイッチ店では、
コックやウエートレスがお昼時のラッシュに備え、準備をしているところだった。
突然、怒り狂った大男が表のドアを開けて乱入してきた。
その男…あとで警察によって、近くに住むセオドア・ターヒューン、26歳と判明…は、
伝えられるところによると、猥褻な言葉を叫び、女子従業員に対しみだらな呼び名をわめいたそうだ。
ターヒューンがサンドイッチ店を出ようとしたとき、彼は店内に客がひとりいるのに気がついた。
その客は68歳の男性だった。
「お前、なに見てるんだ?」
とターヒューンは68歳の客に言った。
「あんた、このお嬢さんたちに丁寧な口をきいていなかったみたいだな」
と、68歳の客が答えた。
ターヒューンはこの客に悪態をつき、こう言ったそうだ。
「じじい、文句があるなら外へ出な」
ターヒューンにとって、これはたいへんな間違いだった。
この“じじい”は、バディ・“ネイチャー・ボーイ”・ロジャースだったのである。
50年代のプロレスのスーパースターで、今はフロリダで余生を送っている伝説的な人物なのだ。
ロジャースは最近、心臓の4つの心室・心房のバイパス手術、それに股関節置換手術を受けたばかりだった。
にもかかわらず…
「ボブ」と先日の夜、ロジャースはぼくに言った。
「やつがわたしのことを“じじい”と呼んだりしたのが始まりさ。
やつはものすごくでっかい野郎で身長193センチ、体重も107キロぐらいはありそうだったが、
バディ・ロジャースを“じじい”なんて呼ぶ者は、いまだかつておらんのだよ」
ロジャースの年の半分にもならないターヒューンは、いきなり殴りかかったという。
「わしはやつを壁に叩きつけてやった」とロジャースは説明した。
「そしたら、やつは鉄の椅子をひっつかんだんだ。
でっかい折りたたみ式の椅子をさ。
やつがそれを振り回したんで、わたしの口のところに当ってね。
血がドクドク噴出したよ。
それでやつの手から椅子をもぎとり、みぞおちに一発くらわしてやった。
やつは冷蔵庫のほうへあとずさりしていったけ。
それから、また一発お見舞いしたら、やつはキッチンのほうへ吹っ飛んで、流しの上に落ちた。
そいつをもう一度ひっつかんだら、やつは私の髪をつかんで悲鳴を上げてな。
『お願いだ!やめてくれ!頼む!やめてくれ!』…哀願ってやつさ。
やつのおかげでわたしはエンジンがかかっちゃってたから、やるならまだ徹底的にやれたけどね」
椅子で殴られた口の傷を15針も縫う必要があるとわかったが、彼は病院にまっすぐに向かわなかった。
「家に帰って、サンドイッチを食べたんだ」と彼は言った。
まず、病院へ向かうほうがよかったのではないか?
「ボブ、そうだろうとわたしだって思ったがね」と“ネイチャー・ボーイ”は言った。
「しかし、わたしは腹ぺこだったんだ」
『アメリカン・ヒーロー』集英社
日本人は、水戸黄門のように、普段はどこにでもいるような好好爺(こうこうや)が、
何か事あったときに悪者をやっつける、というこの手の物語が大好きだ。
映画のスーパーマンでもこれは全く同じ。
勧善懲悪(かんぜんちょうあく)は、ハリウッド映画でも日本の時代劇でも、
全世界に共通する胸のスカッとする爽快(そうかい)なパターンだ。
中でも、実力があるのに身分を隠している人が、しかたなく身分を明かし、
本当の力を見せ付ける場面が一番好まれる。
人は、偉ぶらない、謙虚な人が大好きだ。
その反対に、威張りちらしたり、傲慢な人は嫌われる。
どんな人であろうと、相手をナメてはいけない。
たとえ、年寄りだろうが、弱々しかろうが、みすぼらしい身なりをしていようが、
か弱そうな女性であろうが、小さな子供であろうが…
見くびったり、あなどったり、甘く見ていると、とんだしっぺ返しを食うことになる。
相手をナメている人は、自分のほうが上だと思っている人だ。
その元にある心は、認められたくてしかたないガキ大将のような子供っぽい心理。
そしてそれは、ほんとうの怖さを知らない未熟な子供だからできること。
懐(ふところ)から印籠(いんろう)が出てくるまでわからないようでは、あまりにもおそまつだ。
上には上がいる。
身のほどを知り、常に謙虚であることは、生きていく上でもっとも大切な資質の一つ。 |
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