2011.8.30 |
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呑んだくれの大工 |
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安岡正篤師の心に響く言葉より…
大阪によく路地というのがある。
つまり裏長屋というやつだ。
そういうある裏長屋の行き止まりの所に、貧乏大工の呑んだくれがしけこんでおった。
これは非常に腕がいいんだけれども、何さま酒癖が悪い無精者で、朝から酒ばかり呑んで働かん。
そのためにだんだん人に見放されて、情けない路地奥の九尺二間にくすぶっておった。
それをもったいないというので、家主がある日、長屋を訪れたら、この大工、酔っ払っておって
「何しにきた。家賃の催促か」と、もう目に角を立てている。
「いや、今日は催促にきたんじゃないんだ」
「じゃあ、何しに来たんだ」
「まあそう言うな。いい相談があって来たんだ。
お前は元来非常にいい腕を持っておる」
「よけいなことを言うな」と一々からむ。
「わしがこれからお前に毎日一本ずつつけてやる。
お前の飲むに事欠かんようにしてやる。
家賃もまけてやる。
その代わりわしの言うことを聞かんか」
「それはなんだ」
「お前も一日そう只酒を食らっておっても面白くなかろう、
夕方になったら気持ちよく呑ませてやるから、朝起きたら道具をかついで、
この長屋中を一軒一軒尋ね歩いて、どこか板が外れておらんか、台所の流しが壊れておらんか、
戸ががたがたしておらんか、屋根が傷んでおらんか、床が抜けておらんかと聞いて歩いて、
悪い所を修繕してくれ。
もちろん料金をもらっちゃいかん。
その代わりわしが家賃をまけて、夕方になったら一本呑めるだけの手当てをやる」
「そんなことは何でもない」
「そんならやれ」
というので、奴さん早速やり出した。
するとたちまち長屋中のおかみさんやら親父やら、野郎えらい感心だ。
おれの所へ来て台所を直してくれた。
床を直してくれたという。
しかも礼を取らんものだから皆気の毒になって、何かお菜を持ってきたり、一本持ってきてくれる。
お八つになると何か出してくれる。
奴さん、家主からもらうばかりじゃなしに呑みきれんくらい酒が集まったり、食物も豊かになった。
家主のくれる手当てが残るようになった。
そうすると、いつの間にかそれが隣の路地にも聞こえ、向こう横丁にも聞こえて、
そんな腕のいい、気心のいい大工さんがおるなら、こっちにも来てもらえんか、
こっちにも来てもらえんかと引っぱりだこになって、そうすると張り合いがあるものだから、
先生あんまり酒も呑まんようになった。
あっちこっちで人気がいいものだから、すっかり気持をよくして精出した。
一人では足らんようになって、弟子が二人も三人もできるようになって、
そのうちち堂々たる大工の棟梁になったという。
『活眼 活学』PHP研究所
水を飲みたくないロバを引っ張っていって、水を飲ませることはできない。
ロバに運動をさせ、喉がカラカラになったら、ロバは自らすすんで水辺に行って水を飲む。
呑んだくれや、怠け者に対して、理路整然と「働くことの大切さ」を諄々(じゅんじゅん)と説いても、
「ハイわかりました」といって働く人はいない。
理屈では、だれもが、「人の道」や「道理」は人からいわれなくてもわかっている。
何かを得ようとするなら、まず先に何かを出さなければならない。
先に無料で、人のために、とサービスをしてまわるなら、必ず後から感謝の念が降るように集まる。
そして、感謝の念をお金で返せないときは、みな物を持ってくる。
人間が生きていて最も嬉しいことのひとつは、人から感謝され喜ばれる瞬間だ。
感謝されればされるほど、パワーがでてくる。
まず、人に与えることを先に実践し、感謝される人となりたい。 |
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