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2011.8.25

必死の努力

サイゼリアの創業者、正垣(しょうがき)康彦氏の心に響く言葉より…

最初の店は、青果店の2階で人目につきにくい場所にあった。
それでも「お客さんなんて簡単に来るものだ」と高をくくっていたら、これが全くこない。

深夜まで開ければ集客できるだろうと営業時間を朝4時まで延ばしても、
地元のならず者のたまり場になっただけ。
しまいには客同士のけんかで石油ストーブが倒れ、店が燃えてしまった。
開店からたった7ヶ月後のことだ。

お客様は来ない、来るのはならず者だけ。
挙句の果てに火事にまで遭う。
もう店をやめようと真剣に思った時期もあったし、店を再開するなら、どこか別の場所でと思っていた。

ところが、母に「あの場所(火事に遭った店)はお前にとって最高の場所だから、
もう一度、同じ所で頑張りなさい」と言われ、同じ場所で店を再開することに決めた。

お客の来ないことを立地のせいにしないで、
お客様が来てくれるようにひたむきに努力することが最高の経験になると、母は教えてくれた。

もっとも、ようやく店は再開したものの、やはりお客様は来なかった。
商品に値打ちがあれば、場所が悪くてもお客様は入るはず。
とはいっても、値打ちの出し方が分からないから、とりあえずメニュー価格を5割引きにした。
それでも来ないから最終的には7割引にまで引き下げた。
スパゲティの価格帯は150〜200円になった。

すると、青果店のキャベツやタマネギの山を越えて、ずらっとお客様が並んだ。
客数が一日20人から一挙に600〜800人まで増えた。
店舗面積は17坪・38席だったので20回転にもなった。

とても1店ではお客様をさばけなくなり、
市内に4.5店出してお客様には最寄のお店に行っていただくことにした。
それがサイゼリアの多店化の始まりだった。

「自分の店の料理はうまい」と思ってはいけない。
それこそが悲劇の始まりだと私は思っている。

なぜなら、「自分の店の料理はうまいと思ってしまったら、売れないのはお客が悪い。
景気が悪い」と考えるしかなくなってしまうからだ。
商売とは、お客様に喜ばれるという形で社会に貢献し続けることなのに、
そんな風に考えてしまったら、もう改善を進められなくなってしまう。

別の言い方をすると、「良いモノは売れる…」という考え方は、
地球の周りを太陽や惑星が回っているという昔の世界観「天動説」と同じだ。
自分たちにとって都合よく世界を見ようとするのではなく、物事をありのままに見ようと、
我々は努力しなければならない。
自分中心に物事を考える「天動説」の対極にあるものだ。

『おいしいから売れるのではない 売れているのがおしい料理だ』日経BP


正垣氏は、東京理科大学に在学中にサイゼリアを開業した。
現在、サイゼリアは約900店近くの店舗数を有する。

人目につきにくい場所、ならず者のたまり場、おまけに火事になってしまったりと、
これだけ悪い条件が重なれば、誰もが廃業するか、別の場所への移転を考える。
しかし、そうしなかったところに、非凡な先見性がそこにある。

立地が悪く、お客様がこなければ、お客様を呼び寄せる策を必死で立てるしかない。
しかし、いい立地に店を出すことは、だまっていてもお客様が入ってくるから、
来てもらうための努力がどうしてもおろそかになる。

誰しも、もはや倒産というような、切羽詰って、崖っぷちに立たされたときは、死ぬ気で努力をし、工夫をする。

経営には、よい環境というぬくぬくした状況が、逆に作用することがある。

例えば、何十年と地元で長く営業し、資産もそれなりにある会社は、銀行の信用もあり、
お金を必要以上に貸してくれがちだ。
順調に行っているときはいいのだが、ひとたびリーマンショックや東北大震災のような予期せぬ事態が起こると、売上が半減し、借り入れ金が過大となって返済できず、結局倒産してしまう、ということはよくある話だ。
老舗の旅館がそのいい例だ。

いい立地の店は、だまっていてもお客様が入るので、知らず知らずにお客様の扱いがぞんざいに
なったり、新たな顧客に来店していただく努力をしなくなりがちだ。
もしひとたび、隣に、強力なライバル店ができたときには、とき既に遅し、接客も、商品も、
店舗も新しくてきれいなライバル店に、お客様をすっかり奪われてしまうことになる。

ぬるま湯につかっていると、慢心が始まる。
時には、自らを崖っぷちに追い込み、必死の努力をしてみることも必要だ。



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