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2011.8.22

五感で学べ

川上康介氏の心に響く言葉より…

「タネのタキイ」として知られるタキイ種苗は、年商424億を誇る日本最大、世界でも第四位の種苗会社だ。
その創業は、江戸時代までさかのぼる。

昭和10年に、タキイ種苗が京都府乙訓(おとくに)群に長岡実験農場を設立。
そこに併設されるように誕生したのが、園芸専門学校だ。
これまでに3000人以上の卒業生を世に送り出している。

定員は本科生(1年生)60名、専攻生(2年生)30名。
18歳から24歳までの男子限定の全寮制で、入学費、授業料、寮費、食費などはすべて無料。

しかし、規律は厳しく、「自衛隊なみのハードさ」と言われている。
授業は畑での実習と講義の二本柱。
実習中は東京ドーム15個分ある広い場内の移動はすべて駆け足。
さらに実習後にはその日の学習内容をまとめた日誌の提出を求められる。

寮は一年次は相部屋。
朝7時の起床から夜11時の消灯までタイムスケジュールは厳格だ。
テレビなどの私有は禁止で、携帯電話の使用も制限される。
外出、外泊には学校への届出が必要で、門限は夜10時。
寮内での飲酒は厳禁。
月に1回ほどの頻度で校長による部屋の抜き打ち検査が行われる。

寮にもどっても、プライバシーはまったくない。
食事も風呂も時間が決められていて、24時間一人でいることはない。
昼間の作業で疲れきった体を一人癒す時間はほとんど与えられていない。
ハードでストイック、不自由で不便、実に窮屈極まりない場所だ。

しかし彼らは、実に生き生きと楽しそうに日々を送っていた。
自分たちが置かれた状況に対して多少愚痴めいたことを言うこともあるが、
基本的に快活で、よく語り、よく笑った。
彼らは不自由のなかで楽しみを見つけ、不便や窮屈をネタにして笑い飛ばしていた。

一人の生徒に聞いてみた。
「ここに来てから親や地元の友人から『優しくなった』『気を遣うようになった』と言われるようになりました。
自分ではよく分からないんですが、理由があるとしたら、植物と接しているからだと思います。
植物は自分で話すことができないから、こちらが彼らの気持を汲み取ってあげなければならない。
葉を見て、葉の裏を見て、花を見て、茎を見て… そうやって植物が発するメッセージを受取らないと、すぐに枯れたり病気になったりする。
実習を通してそういうことを学んでいくと、日々の生活や人との接し方にも変化が出てきます。
仲間が今何を考えているのか、どういう気持なのかを常に考えるようになる。
自分のことよりまず相手のことを考えるようになる。
いつの間にかそういうことが自然にできるようになった気がします」(山中景星君)

まだ20歳の青年が多くの人生経験を重ねた大人のように語る。
顔つきや口調もしっかりしていて、揺ぎない自己を感じさせる。
山中君だけではない、ここにいる生徒みんなが同じような雰囲気を持っているのだ。

人は畑で植物を育てる。
しかし同時に畑が人を育てているのではないか。

頭で、体で、そして心で。
人間に備わる五感のすべてを働かせながら、育て、育ち、教え、教わる。

この学校には、人生で学ぶべき大切なことが隠されている。

『五感で学べ』オレンジページ


現代人は、不便なこと、窮屈なこと、と言った不自由さになれていない。
多くの若い人たちは、プライバシーのない集団生活や、厳格で自由のない行動に耐えることができない。

そして、不自由さや束縛を嫌うあまり、他者への気遣いなどを忘れ、自己中心的になりがちだ。
甘やかされて育ってきたからだ。

現代人を考える上で、「甘やかされる」、「過保護」、「我がまま」という言葉はキーワードとなる。
温室育ちであるか、寒風吹きすさぶ原野で育ったかは、生きるための、
強さやたくましさにおいて大きな違いがある。

植物の気持を汲み取れる人は、人の気持も分かる人。

頭も、体も、心も、五感全てを使うからこそ、人は成長する。
時には、不便や窮屈も厭(いと)わず、不自由さも進んで受け入れ、己の心を鍛(きた)えたい。



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