2011.8.6 |
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困難な時にこそ人の情けを知る |
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台湾の元総統、李登輝氏の心に響く言葉より…
1999年、私が総統時代に台湾大地震が起きました。
日本はその日のうちに世界に先駆けて救援隊を差し向けてくれましたし、義損金も世界の中でトップでした。
台湾には「風雨故人来、艱難見真情(困難な時にこそ人の情けを知る)」という言葉がある。
私たちはあの時の日本の恩義を忘れません。
台湾大地震の時、曽野綾子さんが会長を務めていた日本財団から3億円の義損金をいただき、
そのうちの一億円近くを使ってNGOの捜救総隊をつくりました。
創設のお披露目に来ていただいた曽野さんに、私は約束しました。
「この捜救隊は日本に何かあった時、一番に駆けつけますから」と。
私は日本統治下の台湾に生まれ、22歳まで日本人として教育を受け、日本人として生きてきました。
京都帝国大学に在学中、学徒出陣で日本陸軍に入隊。
台湾の大地震の陣頭指揮も、戦時中に日本の陸軍少尉として大空襲に見舞われた
千葉・東京で指揮した救援活動の経験が大きく活かされていたのです。
私は日本のよさは、おそらく日本人以上によく知っています。
今回の大震災で日本の復興を危ぶむ声もありますが、
私は、日本は再生するに決まっていると思っています。
ただし、条件があります。
それは国や国民を第一に思うよい指導者が現れるかどうかです。
台湾にはいまも「日本精神(リップンチェンシン)」という言葉があるんです。
真面目、勤勉、正直、無私などを総称していうのですが、その言葉が根づいたのは、
やはり台湾に来ていた日本人が「日本精神」でもって台湾の近代化に尽力してくれたからだと思います。
リーダーとしての一番大切な条件は、強い信仰を持つことです。
私が総統の職務を担った時機は、毎日が闘争でしたよ。
反対勢力や世間から攻撃されるのが最高指導者の宿命、言われなき非難や糾弾(きゅうだん)、
誹謗(ひぼう)中傷もありました。
あまりのことに妻が「総統をやめてください」と泣いたぐらいです。
リーダーはあらゆる局面において、最終的には自分以外に頼れるものはない。
しかし孤独ではない。
頭上にはいつも神が存在して助けてくれる。
そのような信仰が、一国の運命を左右する孤独な闘いに挑(いど)むリーダーには必要だと思います。
そして、「権力は人民のもの」と弁(わきま)えること。
権力を自分のものと思うな。
権力はいつでも放棄しろ、ということです。
そして、「誰もやりたくないきつい仕事を喜んでやる」。
また、「公と私を区別する」ということも大切です。
そして、最後の条件として「カリスマのマネをしない」ということです。
テレビを利用して人民にかっこいいことを言って人気を取ろうとするのはやめろ、と。
誠実に、正直に、自分の中にあるものを訴えるのです。
私は90年の人生を振り返って、やはり日本統治下で受けた教育があったからこそ肯定的な人生観を持つことができ、それが政治家としてのバックボーンにありました。
『月刊 致知(2011年9月号)』致知出版社
「一将功成りて万骨枯る」(いっしょうこうなりてばんこつかる)という中国の言葉がある。
一人の将軍の輝かしい功績の陰には、多くの兵士の屍(しかばね)が累々としている。
リーダーは、部下の犠牲の上にその功績があることを片時も忘れてはいけない、という戒めの言葉だ。
どんなに、国民が優れていようと、一国の指導者に民を思いやる気持がなくては、
奮い立つ気持はいつしか失せてしまう。
リーダーの力は大きい。
「受けた恩は石に刻み、かけた情けは水に流す」という言葉があるが、
今回の東北大震災での台湾の人々の心に沁(し)みる援助はまさにそれであった。
「困難な時にこそ人の情けを知る」
我々も、受けた恩は決して忘れずにいたい。 |
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