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2011.6.1

遠くに旗を立て続けること

日本経営合理化協会理事長の牟田学氏の心に響く言葉より…

多くの創業者は、時流に乗って事業を興す。
しかし、それは事業家にとってほんのスタートにすぎないことを知っておくべきである。

時流がブームを呼んで、ただ儲かるというだけで、次々にライバルが生まれ、
臆面もなくそっくり類似した物やサービスが売られる。
供給過剰から過当な競争が起こり、ついには、生き残って栄える企業はごく僅かだという状態になってしまう。

「糸偏(いとへん)」ブームが来た。
カメラのブームも起こった。
家電ブームも来たし、自動車のブームも来た。
やがて少し豊かになると、外食やレジャーや海外旅行ブームもやって来た。

しかし、市場が飽和状態になると、大半の事業は次々に倒れていった。
事業を永く続ける哲学や思想がない事業家は、次代を担う生命の根源である商品や顧客を磨き、
追加し、新しく育てることを忘れ、事業を維持できなくなる。
資本主義は競争が原理で成り立っている。

悪いものが浄化されるように、自由競争は自然に良いものだけを残す。
これからは、人類を幸福にするというコンセプトに価値観が絞られる時代に移っていく。

こういう時代の流れは、誰も変えることができないごく自然な、そして確実な流れである。

言語も、宗教も、哲学も、文化も、スポーツも混合し、そこで生きる企業も、
人も、国という垣根を越えていく時代が到来している。

先見力は、事業家にとって欠かせない大事である。
特に、これからはどんな産業分野が栄えるかを掴んで、事業経営の方向性を決定することに鈍い人は、
リーダーとして不向きだと言わざるを得ない。
時流は、まず捉えるべき第一の旗である。

時流に乗って事業を繁栄させることは、決して難しい事ではない。
時流に逆らったものの方が、かえって難しいし、
儲けるのに5倍も6倍もの努力をしても大して成果が得られないのが普通である。

しかし、次の旗はもっと難しい。
時流が味方している間は、さほど卓抜の手腕がなくても、稀には大した努力をしなくても儲かることが多い。
なかには、幸運にも、偶然に自分が踏み込んだ事業分野が未成熟で、たまたま需要が多かっただけで、
その繁栄を自分の実力によるものだと錯覚することも起こりやすい。
これが怖い。

努力しないで儲かることが1.2年も続けば、それが当り前になって、
社長も、役員も、社員も、怠惰(たいだ)になってしまう。
儲かることは永くは続かないのだ。

新しい顧客の開拓に腐心し、新しい事業の柱を作り、商品を絶えず改良し、
追加していかなければ会社は駄目になってしまう。

だから、難しいのは二本目の旗、三本目の旗だと言っているのである。
環境や状況が一変した時でも、一つの事業を足がかりに、危機や大変貌に対応し、素早く手を打って、
他の不振や混乱をよそに、売上も利益も伸ばし続けていくことを目指していかなければならない。
これが難しい。

『幾代もの繁栄を築く オーナー社長業』日本経営合理化協会出版局


市場や環境は激変する。
誰もが想像しなかった未曽有の大震災が発生し、放射能の被害は特に深刻だ。
資材や部品が足りなくなり、自動車産業や、建築業界を始めとして各産業にも大きな影響がある。

誰も競争相手がいない分野では、商売が成功する確率はかなり高い。
しかし、そんな幸運は長くは続かない。
繁盛していると見れば、ライバルが市場にあっというまに参入してくるからだ。

今、繁盛しているのなら、余力があるうちに次の新しい商品や事業という、新たな旗を立てることが必要だ。
しかし、今努力しないで儲かっているところのほとんどは、
あえて危険を冒すことをせず、ぬるま湯につかってしまう。

易経に次の言葉がある。

君子は安くして危うきを忘れず
存(そん)して亡(ぼう)を忘れず
治に居て乱を忘れず

君子は、安全な泰平の世においても、危機がひそんでいることを忘れず。
たとえ平穏な日々が続いていても、滅亡の危険があることを忘れず。
平和なときにも、戦乱や天災が起こることを忘れない。

世の中が激変し、大転換する今こそ、夢を持ち、志という旗を立てなければならない。
はるか先を見つめ、遠くに旗を立て続けたい。



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