2011.5.28 |
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世間の物差し |
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心療内科医の海原純子氏の心に響く言葉より…
勝ち組、負け組という言葉。
好きではないが、このところすっかり、日常生活に定着してしまった。
勝ち負けの基準とは何か。
収入、学歴、持ち家、仕事の業績、売り上げなどなどだろう。
たとえば、売り上げの多い人が勝ち、少ない人は負け、という「世間の物差し」で勝敗が決まる。
もしあなたが、「世間の物差し」しか持っていなかったら、大変だ。
収入が低かったり、売り上げが悪ければ自分は全くダメな人間となってしまう。
今、自信がなくて元気がない人が日本に多いのは、
「世間の物差し」しか持っていない人が多いからだと思う。
アメリカは、日本よりもっと格差がはっきりした社会である。
そして、お金を持つことが明確に勝ちとされる物差しが存在する。
ただし、「世間の物差し」では負け組みだが、自分には別の物差しもあって、
好きで絵を描いて作品を作っています、とか、仲間とバンドをやってます、とか、
教会で歌ってます、などという人によく出会う。
そのような人は、「自分はダメな人間」といじけてしまうことはない。
「世間の物差し」と別の物差しを持てば、
いわゆる世間の勝ち組にはなれなくても、人生を楽しむゆとりができる。
対人関係も同様で、役に立つ人とだけつきあおうとせず、
自分が一緒にいて楽しくくつろげる相手とかかわるようになるから、いい仲間ができる。
収入、学歴、美しさ、地位という「世間の物差し」は目に見える基準である。
こうした基準をもとにして、それを目標に目指すことを外在目標志向という。
これとは対照的に、
家族や友人との関係を満足なものとして努力することに価値をおく内在的目標志向がある。
外在的目標志向が世間の評価や他人の目に依存しているのに対し、
内在的目標志向は、その人自身の内的な充足感に価値をおいている。
調査の結果、外在的目標設定をする人は抑うつ的であり、幸せ感や喜びの感情を味わった経験が少なく、
頭痛や倦怠感などの症状の訴えが多いことがわかったという。
ハーバード大学のI・カワチ教授は、
「アメリカンドリームを追い求めるとあなたの健康を害するおそれがあります」という警告を、
政府は出すべきかもしれない、と著書のなかで述べている。
『大人の生き方 大人の死に方』毎日新聞社
安岡正篤師の有名な言葉に、「壺中有天(こちゅうてんあり)」がある。
中国の後漢書の中の物語だ。
役所に勤めている、費長房(ひちょうぼう)は役所の2階から何気なく通りを眺(なが)めていた。
通りには、壺を売っている店があった。
やがて、店じまいの時間となると、売り手の老人が周りを見回し、誰も人がいないのを見計らって、
店先に置いてある壺の中に入っていったまましばらく出てこなかった。
不思議に思った費長房は、次の日その店に行き、老人を問い詰めた。
老人は、「見られてしまったか、仕方が無い、ついて来なさい」と言い、壺の中に誘った。
壺の中に入ってみると…
そこは、花が咲き、鳥が鳴き、真っ青な天空が広がる別世界だった。
小さな壷(つぼ)の中に、広大無辺の世界がある。
世間の物差しでは計ることのできない、自分だけの独自の世界だ。
誰にも邪魔されない、心休まる別世界を持つ人は幸せだ。
世間の物差しに惑わされない、自分独自の物差しを持ちたい。 |
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