2011.5.15. |
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是非(ぜひ)に及(およ)ばず |
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火坂雅志(ひさかまさし)氏の心に響く言葉より…
織田信長は日本史を変えた男である。
若き日の改革者としての光、晩年の専制君主としての闇の部分も含めて、
とにかく異彩を放つ存在であったことは間違いない。
天正十(1582)年、京の本能寺に滞在中、突如、叛旗(はんき)をひるがえした
重臣の明智光秀(あけちみつひで)の軍勢に襲われた。
そのとき、信長が発したとされるのがこの言葉であった。
「是非(ぜひ)に及(およ)ばず」
是非とは、是か非か、すなわち良いか悪いかである。
それを判断するまでもないというのだから、
「仕方ない」
とか、もっと俗に言えば、
「しょうがねぇ」
という意味になろう。
武将としては、かなり型破りの言葉である。
だが、この短いひとことには、信長という男の人生観がはっきりとあらわれている。
『武士の一言(いちごん)』朝日新聞出版
日本は古来より、台風や、地震、火山の爆発などの天変地異が多く起こる国柄だ。
毎年のように、自然災害を経験するたび、独特の死生観が生まれた。
それが、「是非(ぜひ)に及(およ)ばず」という言葉にもつながっている。
天に向って文句を言ってもはじまらない、という諦めにも似た、無常観だ。
運命にさからわず、超然とそれを受け入れる。
子どもと天真爛漫に遊んだ良寛さんにも、
辛酸を嘗(な)め尽くした果ての諦観(ていかん)がある。
「裏を見せ 表を見せて 散る紅葉」
「散る桜 残る桜も 散る桜」
「是非に及ばず」は日本人の泰然とした覚悟。
ジタバタしても仕方がないこともある。 |
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