2011.5.11 |
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変化のポイント |
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斉藤孝氏の心に響く言葉より…
今、世の中は「改革」ブームである。
「何でも変えればよくなる」と思っている風潮がある。
しかし、兼好は「改めて益(やく)なき事は、改めぬをよしとするなり」という。
「改めてもそれほど利益がないのだったら、それは変えないほうがいい」というのだ。
この兼好の言葉は消極的な考えではなく、いかに変えればいいかという示唆を含んでいる。
不調や不況に陥ると、人間はどうしても変化を求める。
しかし、変えたほうがいいところと、かえなくていいところを、きちんと区分けしなくては、
変えることだけにエネルギーが費やされてしまい、むしろ実質的によくしようというエネルギーが失われてしまう。
また、それまでもっていた「よい部分」までも失ってしまう危険性もある。
現実に改革を行うときには、いかにすれば最小限のコストで最大の効果を上げるかを、
まず考えるべきなのだ。
そこで何が重要になるのか。
その一点さえ変えれば、あとは芋づる式に変わって行き、
現実がことごとく変わる「具体的なポイント」を探すのである。
その一点さえ見つけたら、そこを変えることに全力で打ち込めばいい。
そうした「一点」の具体例としては、バスケットボールにおけるスリーポイントシュートがあげられる。
米国のプロ・バスケットボールのNBAは毎シーズンのようにルールを変え、
観客にいつも面白い試合を見せる工夫をしている。
1度のシュートで3点取れるというスリーポイント制度は、かつてはなかったルールだ。
何のためにこのルールができたか。
同じシュートを打つならば、遠くからでは、リングに入る確率は低い。
となれば、当然、近くから正確なシュートを打とうとする。
そうなると、背が高い選手のほうが圧倒的に有利だ。
各チームとも、できるだけ背の高い選手を多く集め、ついには試合は、
リングの上から直接入れるダンクシュートが花形になってしまった。
そのために、遠くから、ボールが吸い込まれるような、
ドラマティックなシュートを見せるというバスケット特有の醍醐味が失われてしまった。
実際には、「ここに線を引き、その線の後ろからのシュートが入れば3ポイントにしよう」という、
ささやかなルールを変更しただけである。
たったそれだけのことで、試合終了間際の緊張感がぐっと増すとともに、
「遠くから投げたシュートが吸い込まれるように入る」というバスケット特有の醍醐味が味わえる機会も増えた。
背の低い選手でも「スリーポイントシューター」として活躍できるようになり、
ただ背が高いだけが有利という常識を覆すことにもなった。
戦術も含めてがらりと変わってしまったのである。
『使える!『徒然草』』PHP新書
改革や変化とは、そこさえ変えれば全てが変わるような1点を見つけること。
安岡正篤師が語っていた、シンギュラーポイントのことだ。
シンギュラーポイントとは、物理学用語だが、急速に変化する特異なポイント。
カップヌードルがアメリカに進出したとき、最初はバスタの売り場に置いて全く売れなかったが、
その後、スープ売り場に変更しただけで、爆発的に売れるようになったという。
胡椒や調味料の容器の穴を大きくして、売上が大幅に上がったという例もある。
廃園になりそうだった動物園を、見せ方を変えたところ、入場者数が飛躍的に増えたのは旭山動物園。
我々は、大きな変化でなければ、変えても意味はない、と思ってしまう。
そうではなく、大事なことは、ここを変えれば全部が変わるという、シンギュラーポイントを見つけること。
変化のポイント、ここぞ、という1点を見つけ出したい。 |
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