2011.5.6 |
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生きる限りはいさましく生きること |
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ノーベル賞作家のパール・バックの心に響く物語より…
【つなみ】
ある時、大津波が来て、海辺の村は根こそぎ波にさらわれ、多くの人が亡くなった。
そして、生き残った少年は、父親に尋ねた…
「父ちゃん、日本に生まれて損したと思わんか?」
「なんでそう思うんじゃ?」
「家の後ろには火山があるし、前には海がある。
その二つが悪いことしようと、地震や津波を起こしよる時にゃ、だれも何もできん。
いつもたくさんの人をなくさにゃあいけん。」
「危険の真っ只中で生きるってことはな、生きることがどんだけいいもんかわかるというもんじゃ。」
「じゃが、危ない目に会って死んだらどうする?」
と息子は心配そうに聞きました。
「人は死に直面することでたくましくなるんじゃ。
だから、わしらは死を恐れんのじゃ。
死は珍しい事じゃないから恐れんのじゃ。
ちょっとぐらい遅う死のうが、早う死のうが、大した違いはねえ。
だがな、生きる限りはいさましく生きること、
木や山や、そうじゃ、海でさえどれほど綺麗か分かること、仕事を楽しんですること、
生きる為の糧を生み出すんじゃからな。
そういう意味では、わしら日本人は幸せじゃ。
わしらは危険の中で生きとるから命を大事にするんじゃ。
わしらは、死を恐れたりはせん。
それは、死があって生があると分かっておるからじゃ。」
…そして、『生は死より強し』だ、と父親は息子に何度も繰り返し言いました。
『つなみ』径書房
パール・バックは1892年、アメリカに生まれた。
18歳でアメリカの大学に入学するまでずっと中国で暮らしていたが、
途中日本にも訪れ滞在した経験をもとに書かれたものだ。
日本人を見つめる眼が限りなく優しいこの本は、1947年に出版されて以来、
アメリカでは版を重ね、多くの人々に親しまれているという。
あとがきには、
「西洋のものとは質を異にした日本人の自然観、生活観、死生観、人間愛などが、巧みに描かれている。
何度も自然に大切なものを奪われながらも、自然をありのままに受け入れて、
同じ所に家を建てる人々の生き方は、合理的に物事を考える西洋人にとっては、
神秘的ですらあったのではないか」、とある。
今から60年以上前に出版された物語だが、今回の震災を思い浮かべずにはいられない。
日本人は、神代の昔から、火山や地震、そして津波の危険にさらされて生きてきた。
何度も繰り返し、大きな自然災害に遭いながらも、生き延びてきた。
それが、日本人の自然観や、死生観を形作っている。
文中にあった珠玉の言葉…
「危険の中で生きているから命を大切にする」、「自然を美しいと感じる心」、
「生きる為の糧を生み出すため、仕事を楽しんですること」、
そして「生きる限りはいさましく生きること」。
『生は死より強し』、そんな強さを持った日本人でありたい。 |
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