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2011.4.13

何のためにお金を稼ぐのか

伊藤肇氏の心に響く言葉より…

月僊(げっせん)は絵を頼まれると、すぐ「潤筆料(じゅんぴつりょう)をいくらくれるか」ときいたために、
人々は絵の価値は認めながらも、金銭への執着を嫌って、「乞食月僊」と卑しんだ。

それを心配し、池大雅が伊勢参宮に名をかりて月僊を訪ねてきた。
「貴僧の絵の風格には心から敬服しておりますが、
どうして乞食とまでいわれて金銭に執着されるのですか。
画料のことは、あまりやかましくいわぬほうがよろしかろうと存ずるが…」

月僊も、好意ある言葉に深く打たれた様子だったが、返事はしなかった。
しかし、依然として態度を改めなかった。

こうして月僊は、文化6年の正月、69歳で没した。
縁者たちが遺品の整理をしたところ、その中から、
夥(おびただ)しい領収書や人夫の手間賃の控え、土木の契約書、設計図などが出てきた。
しかも、ことごとく伊勢の参宮道路の修理と橋の普請に関するものだった。

そういえば、荒れ果てた参宮道路や毀(こわ)れた橋などが、
時折、補修されたり、架けかえられたりして、参拝者や付近の人々が喜んだものだ。
しかし誰しも、奉行所の仕事と思い込んでいた。

それが、何ぞはからん、自分たちが「乞食坊主」と罵(ののし)った月僊和尚がやったことだと
わかった時、人々はいてもたってもおられない気持に襲われた。

『帝王学ノート』PHP文庫


月僊(げっせん)は江戸中期の画僧で、知恩院に住み、
円山応挙に師事して、独自の画風を確立したという。

とかく、日本では、お金や、お金を稼ぐ人に対して、あまりいいイメージをもたない人が多い。
がめつく稼いでいるとか、金の亡者であるとか、お金持ちへの嫉妬心もある。

人生で大事なことは、「何のために」という言葉だ。
何のために、仕事をするのか。
何のために、学校へ行くのか。
何のために、お金を稼ぐのか。

お金は「稼ぐ方法」とか「手に入れ方」といった、「入ってくること」に多くの関心が向けられがちだ。
しかし、大切なことは、「何のためにお金を稼ぐのか」という、お金が「出て行くこと」。

大災害の復興には想像を絶するお金がかかる。
復興への祈りや善意の気持ちが大事なのはいうまでもないことだが、
しかし、現実に必要となるのは、お金だ。

だからこそ、被災しなかった者たちの大きな務めは、しっかり仕事をして、お金を稼ぐこと。
月僊(げっせん)和尚まではできないにしても、少しでも被災地のお役に立ちたい。



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