2011.3.7 |
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パトカーの先導 |
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南蔵院の林覚乗住職の心に響く言葉より…
何年か前の、5月の連休中のこと、あるご夫婦が、ライトバンのレンタカーを借りて、
佐賀から大分県の佐伯(さえき)市を目指して出かけた。
佐伯市からは夜11時に四国行きのフェリーが出ていたからだ。
有料道路も整備されていなかった時代なので、充分な時間の余裕をもって出かけたつもりだったが、
迷いに迷ってしまい、大分の湯布院に着いたときは、夜の9時だった。
ご主人はこれでは間に合わないとあせって、大分南警察署に飛び込み、佐伯までの近道を聞いた。
警察官は、
「我々、大分の慣れた人間でも、佐伯までは距離があり、
山道で複雑なので、道に迷ったり、事故にあうかもしれない。
今晩はあきらめて、ゆっくりここへ泊まり、明日出かけたらどうですか?」
とアドバイスした。
しかし、ご主人は、
「それは、できません。
実は、私たちの19歳になる娘が、
高知県でウインドサーフィンをやっている最中に溺(おぼ)れて亡くなった、
という知らせを今日受けたのです。
生きた娘に会いにいくのなら、明日でもいいのですが、
死んでしまった娘ですから急いで駆けつけてやりたいのです」
と正直に事情を話した。
それを聞いた、警察官はそういうことなら、「全力をあげて、何とか努力だけはしましょう」と言った。
そして、すぐにフェリーの会社に電話をし、事情を説明して、出港を待って欲しいと頼んだが、
「公共の乗り物でもあるし、キャンセル待ちが何台もあり、難しい。
とにかく10時半までには来て下さい」、と断られたという。
そのやり取りをしている間、もう一人の警察官が署長に了解を取り、
車庫のシャッターをあけ、しまってあったパトカーを出してきた。
そして、赤色灯をつけ、レンタカーの前にぴったりつけ、
「今から、この車をパトカーで先導します。
このレンタカーの運転もベテランの警察官が運転しますので、
ご夫婦は後ろの席にかわってください」と言った。
そして、ものすごいスピードで大分市内まで降りてきて、
「我々はここから先は送れませんが、とにかくこの10号線をまっすぐに南に下ってください。
そうしたら佐伯に必ず出られます。どうか、頑張って運転してください」
と言って、敬礼をして戻って行った。
佐伯に着くと、警察官の再三再四の要請に、船会社も動いてくれ、
一台分のキャンセル待ちのスペースを空けて待っていてくれた。
そして、フェリーになんとか乗ることができ、娘さんの遺体を収容して帰ってくることができたという。
娘さんを亡くされたご夫婦は、その後何日間かは、あまりの悲しみで呆然(ぼうぜん)とし、何もできなかった。
しばらくして、気持も落ち着き、「あの時、もし船に間に合わなかったら、どんな気持で一日待っただろうか」、
と思うと、いてもたってもいられなくなり、大分南警察署にお礼の手紙を出した。
そして、その手紙で、皆の知るところとなった、そのときの若い警察官は表彰され、こう言ったという。
「我々だけじゃないと思いますが、人と人との出会いは損か得かじゃありません。
損か得かだったら、こういうことは一歩も進みませんから」
『であい』南蔵院講演CD
ある人がハンバーガーの店で、何十人前かのハンバーガーを、一人で買って帰ろうとしたところ、
店員が「こちらでお召し上がりになりますか?お持ち帰りになりますか?」と聞いたというのは、
マニュアル作業の融通のなさを揶揄(やゆ)する有名な話だ。
規則や、マニュアルに縛(しば)られ、自分の頭で何も考えなくなったとき、
人の世はギスギスしたものになる。
「規則ですから」、「決まりですから」、「私にはどうしようもありません」と、
あまりに木で鼻をくくったような応対をされたときは、がっかりするのを通り越し、怒りさえ湧いてくる。
「なぜ、相手の立場に立った応対ができないのか」
「なぜ、人の気持がくめないのか」
人は、自分の身を守るため、時としてマニュアルや規則を盾(たて)に取ることがある。
マニュアルや規則を超えた行為は、後が面倒で、関わりたくないのが大方の考え方だからだ。
自分の利益しか考えない行動や対応は、寂しい保身の行為だ。
世のため人のため、損得を超えた、温かな思いやりあふれる気持で、毎日を過ごしたい。 |
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