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2011.2.28

人は生きてきたように死ぬ

沼野尚美(なおみ)さんの心に響く言葉より…

Mさんは、28歳の若さで末期癌患者となってホスピスに来られました。
当時5歳と3歳の子供さんのお母さんでした。
病室に到着された後、挨拶に伺った私に涙を浮かべて、
「私、どんな姿になっても、子供たちのために生きていてやりたい」
と言われました。

それからの日々、病室で子供たちとの時間を大切に過ごされた彼女でしたが、
ある日、訪問した私に初めてこんな弱音を吐かれました。

「私、もうダメだわ」
淋しそうにいわれたその言葉に対して「どうしてそう思うの?」と問うと、

「だって体の中から力が出てこないんですもの。
自分の体でわかるわ。
もうあまり長くは生きられないと思う」
と言われ、レターセットを買ってきてほしいと頼まれたのです。

翌日、レターセットを手渡すと、彼女はその日から、少しずつ子供たちに宛てて手紙を書き出されました。
5歳の長男が、小学校に入学する日まで生きられないと思った彼女は、まず長男への手紙を書きました。

しょうがっこうに、にゅうがくした
さとしくんへ
おめでとう。おかあさんは、さとしががっこうへいくすがたを、
ちゃんとおそらから、みていますよ…

ひらがなばかりで書かれた手紙でした。
小学生になった長男を、どんなに誇りに思うかという彼女の気持が込められていました。

彼女は次に、中学生になった長男を想像して手紙を書きました。
「しばらく、ご無沙汰をしていました」と書き始められた手紙は、
ユーモアも込められていて、漢字も使われた手紙でした。

高校生になった長男へ宛てられた手紙は、大人としての文体で書かれ、所々に涙の跡が見られました。
まだ5歳の息子の姿を見ながら、高校生になる姿を想像することは、どんなに辛かったことでしょう。

家族に内緒で書かれた手紙は、亡くなる前にご主人の手に渡されました。
そのとき、彼女はこう言ったそうです。

「今までありがとう。
あなたと結婚できて幸せでした…。

あなたはまだ30歳。
だから私がいなくなった後、いい方が現われたら再婚してください。
子供たちを大切にしてくださる方だったら、私は天から祝福します。

しかし、こんなに早く旅立つことになって、子供たちに十分に愛を注げなかったことが残念でなりません。
それで子供たちへの手紙を書きました。
子供たちの成長に合わせて一通ずつ渡してくださいませんか。

私の姿が消えても子供たちへの愛は残せると思いました。
これからも愛されているこを知るならば、子供たちはどんなことがあっても、
真っ直ぐに生きていくことができるでしょう。
だから、愛されていることを感じさせてやりたいのです」

『癒されて旅立ちたい』校成出版社

沼野尚美さんは、アメリカの大学で心理学を学び、病院チャンプレンとカウンセラーを兼務している。
チャンプレンとは、教会に属さないで、施設や組織で働く聖職者のことだ。

ホスピスは、緩和ケア病棟ともいい、末期の癌患者さんを専門スタッフがサポートし、
安らかな死を迎えてもらうための施設だ。

安岡正篤師の言葉に、「人生五計」(宋の朱新仲)がある。

どんなふうに生きるかという「生計」、社会での身の立て方という「身計」、
家庭生活や家でのやりくりという「家計」、どんなふうに老いるかという「老計」、
そして最後に「死計」がある。

「死計」とは、自分はどんなふうに死にたいのか、という計だ。
いかに死ぬべきかは、いかに生きるべきかと同義語だ。

『人は生きてきたように死ぬ』(沼野尚美)

死ぬときに、多くの人から惜しまれて亡くなるのか、それとも、
「やっと死んでくれた」とばかりに厄介者扱いされて死ぬのか、それは生きているときの行動による。

いくら、「最後だけは格好よく死にたい」、と思っても、
今までの生き様(ざま)が死に様となるのだから、死ぬときだけ急に変わることはできない。

『あなたが虚しく過ごしたきょうという日は
きのう死んでいったものが
あれほど生きたいと願ったあした』 (カシコギ)

少しでも長く、一秒でも長く生きたかった人たちは大勢いる。
今、生かされている有り難さに感謝し、今、この瞬間を大切に生きたい。



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