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2011.1.23

大人たちが発する何気ない言葉

梅田望夫の心に響く言葉より…

斎藤孝さんが自らの30代前半を振り返り、ある著書の中でこんなことを書かれていて、
私はそこに深く共感しました。

「ある日、私はある経営者と雑談をしていて、
『いずれは文科大臣をやろうと思っているんです』と言ったことがあった。
すると、『ははは、バカを言ってはいけない』と一笑に付されたのである。(中略)
そのときは平静を装っていたが、心の中では『よくも言ったな!絶対に目にものを見せてやる』と、
瞬時に自分のパッションに火をつけていた」
“働く気持ちに火をつける”(文春文庫)

次に、私の具体例を出してみます。
私は、36歳のときにシリコンバレーで経営コンサルティング会社を創業しました。
創業まもない頃、あるメーカーの経営者からこんな言葉を投げつけられました。
「梅田くん、虚業もいいけれど、そろそろ実業の世界で活躍してみる気はないかい」
虚業。
虚(うつ)らな業(なりわい)、ですか…。
私は絶句しました。

私は斎藤さんのように「平静を装」うことができず、「虚業」と口にした経営者に対して、
あなたは、誇りを持って仕事をしている私に対して、
とんでもなく失礼なことを言ったのだからこの場で謝罪してください、と強く言いました。

新しい職業ではあるけれど、虚ろだと蔑(さげす)まれる理由などどこにもない。
しかしその経営者は、私が何に怒っているのかわからずに、しばらくぽかんとしていました。

言葉の背後に悪意などまったく存在しないところがなおさら悔しいし、
口にした当人たちは何の迷いも葛藤も逡巡(しゅんじゅん)もなく言葉を発しているゆえ、
こちらの怒りをぶつけどころすらわからなくなってしまいます。

そこに存在するのは、「時代の変化」への鈍感さ、
これまでの慣習や価値観を信じる「迷いのなさ」、社会構造が大きく変化することへの想像力の欠如、
「未来は創造し得る」という希望の対極にある現実前提の安定志向、
昨日と今日と明日は同じだと決めつける知的怠惰と無気力と諦め、
若者に対する「出る杭は打つ」的な接し方…といったものだけ。

特に、大人たちが発する何気ない言葉の数々が、子どもたち、若者たちの心を萎えさせ、
悪影響を及ぼし、社会全体の活力をそいでいることを問題視しています。

『私塾のすすめ』(斎藤孝/梅田望夫)ちくま新書

大人が何気ない言葉を発し、それに子どもたちが傷つくことは多い。
子どもが、「サッカー選手になりたい」、「宇宙飛行士になりたい」、「ノーベル賞を取りたい」と言ったとき、
「何を突拍子もないこと言い出すんだ、と笑われる」、
「そんな夢みたいなことばかり言ってないで、勉強しなさい」そして、
「どうせ無理」、「難しいねぇ」と言われる。

大人は挫折も成功も経験し、そのぶん、人生も長く生きている。
だから、ある程度、若者の道筋も見えるのかもしれない。

しかし、それはあくまでも、今の自分の延長線で考えたこと。
今までの自分の人生がうまく行っていないと思っている人は、
後から来る者たちにもそういうアドバイスをしてしまう。

「どうせ無理!」なのか、「絶対に大丈夫!」なのか、発する言葉は、今の自分を表している。

長く生きてきたものの努めは、「若者を上に引き上げること」。
自分が前面に出るのではなく、彼らの可能性を伸ばすこと。

そのためには、自分の考えがフレキシブルでなければいけない。
新しいものへの好奇心と、想像力を働かせ、時代の変化に敏感であること。

若者の限りない可能性をつぶさず、夢と希望を応援する人生でありたい。



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