2010.12.11 |
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親の生き様(ざま) |
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田中信生氏の心に響く言葉より…
銀行主催の講演会で、地元の商店主のみなさんにお話する機会がありました。
話が終わり、質疑応答の時間になりました。
一人の方が手を挙げました。
その人は魚屋の主人で、三人息子がいます。
丁稚奉公から始まって、苦労して店をもったのに、だれも店を継ごうとしない。
一代で終わらすのは忍びない。
なんとかならないだろうか?
そういう質問でした。
私ははこう言いました。
「お父さん、それは簡単です」
全員の注意がグッとこちらに集まりました。
「お父さんが毎日どういうふうに生きておられるかがカギですよ。
『なんで魚屋なんかになっちまったんだべ、スーパーに押されて客は来ないし、この腐れ魚め!
母ちゃん、おまえ配達しろ、オレは寝る』
なんてふうに生きておられるなら、息子さんは絶対にお店を継がないでしょうね。
だって継がないように訓練してるんだもの」
ご主人はフムフムと聞いておられます。
「そうじゃなくて、
『いやーっ、魚屋になってよかった。
お客さんは、この店の魚は活(い)きがいいと言ってくださるし。
スーパーなんかに負けねえ。
母ちゃん、来年は店をこんなふうにやろうな、クルマも新しいの買ってな』
…こんなふうに生きてごらんなさい。
三人のうちの一人ぐらいは、きっとあとを継いでくれますよ」
それから、半年ほど経ったころ、私はすっかりそのことを忘れていましたが、
元気のいい魚屋さんが大きな魚を持って訪ねてこられました。
「先生、覚えてますか」と言われて、
「ああ、あのときの」と思い出しました。
「先生、聞いてくれぇ、いやあ、うちの息子が二人も魚屋やるって言うんだ。
おら一人でいいって言うのに」
『そのままのあなたが素晴らしい』だいわ文庫
人から、ああしろ、こうしろ、と上から命令されて、その通り動く人はいない。
会社なら、命令ひとつで動くと思っている人もいるが、それは違う。
人が本当に動くときは、人に言われてではなく、自らの意思で、動きたくなるから動く。
その気にならなければ、ダメなのだ。
「大きな声で元気よく、挨拶をしよう!」といくら掛け声をかけても、
その言っている本人の挨拶が大したことなければ、それに続く人はいない。
理屈や言葉ではなく、実際の行動で示すほうが、より深く相手の胸に響く。
百の言葉より、ひとつぶの涙だ。
自営であれ、会社員であれ、親の生き様が子供に伝わる。
会社から帰ってきて、毎晩、疲れた顔をして、不満や愚痴ばかり言っているなら、
子供は大人には憧(あこが)れない。
「仕事の話を楽しそうにする大人」、「自分の仕事に誇りを持つ大人」、「夢を追いかける大人」
子供が目指し、目標としたくなるような、魅力ある大人でありたい。 |
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