2010.10.6 |
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人間の本当の姿がわかるとき |
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志賀内泰弘氏の心に響く言葉より…
不況である。
毎日のように新聞・テレビは不良債権のニュースを告げている。
そんな中、友人のAさんの会社も耐え切れず倒産した。
Aさんは、IT関連のベンチャー企業の社長であった。
三十歳そこそこで時代の寵児(ちょうじ)になった。
マスコミにもしばしば登場し、政治家や財界人との付き合いも華やかだった。
ナスダック上場の話しも持ち上がり、まさにこの世の春であった。
しかし、その春は永くは続かなかった。
かわいがっていた部下からも裏切られた。
出資してくれた企業家からは、
「二度と町を歩けんようにしてやる」
「一生奴隷になって働け」
と凄(すご)まれた。
いつもニコニコ愛想のいい宅配のお兄ちゃんも豹変(ひょうへん)し、
「隠れたって居るのはわかっとるゾ、カネ返せ!」
とドアを蹴りまくった。
Aさんは家の中でブルブル震えていたという。
体調も崩れ、痩(や)せこけて別人のような顔立ちになった。
何ヶ月か経ち、少し落ち着いて、出資者やお金を貸してくれた人にお詫びに回るようになった。
どこでも罵倒(ばとう)され、そのたびに命の縮まる思いがした。
そんなとき、500万円出資してくれたBさんのもとを訪ねた。
たぶん、ここでもボロクソに言われるだろうな、と覚悟していた。
Bさんは学者で、ときおりテレビにも出る著名人。
歯に衣着せぬコメントで有名な人物だ。
Aさんを前にして開口一番。
「こういうとき、人間の本当の面がわかるんだよ。いい勉強だ。よく見ときなさい」
ただそれだけを言うと、仕事場に消えた。
Aさんは、涙があふれて止まらなかったという。
『元気がでてくる「いい話」』グラフ社
今まで成功していた人が、ある日倒産したり、失敗して迷惑を掛けたとき、
たいてい人は態度が豹変する。
邪険に扱い、罵倒もする。
時代の寵児(ちょうじ)に祭り上げられた者が転落したときほど
世間の批判の目は厳しい。
国家の品格を書いた、藤原正彦氏は、ライブドアの堀江氏(ホリエモン)が全盛の頃講演で、
彼のことを「下品」で「卑怯」と口を極めて批判した。
しかし、その後、彼が逮捕されると、ピタッと堀江氏のことは言わなくなった。
「司直の手が入り、裁かれた者に、さらに追い討ちをかけるような真似はできない」
「それが、惻隠(そくいん)の情だ」と言っていた。
惻隠の情とは、弱者へのいたわりやあわれみの心であり、
失意に打ちひしがれている敗者への思いやりの心だ。
日本古来の武道には、この惻隠の情があった。
だが、昨今では、勝ってガッツポーズをしたり、勝ち誇るような高笑いをする者さえいる。
敗者や弱者、虐(しいた)げられた者に対したとき、人間の本当の姿がわかる。
惻隠の情を持てる人でありたい。 |
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