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2010.7.20

何もなかったことにしよう

精神科医の斉藤茂太氏の心に響く言葉より…

「何もなかったことにしよう」と、私は胸中でつぶやくことがある。
すると不思議と、心に元気が出てくるのを覚える。

夏目漱石の『草枕』の冒頭に、
「どこに行っても人の世だ」
という言葉がある。

人間は、人との関わりの中で生きていて、脱出することは不可能だ。
しかも、人との間で、摩擦の起こらないことはない。
だから、いかにその中で心地よく生きていくかを考えるのだ。

摩擦が起こったら、起こったことをくよくよ悩まず、解決する方法を模索してほしい。
そのためには、何もかも水に流してしまうことだ。
むかついたひと言も、手痛い仕打ちも、すっかり忘れてニコニコと笑顔を振りまくのだ。

「そんな人格者みたいな」と思うだろう。
しかし、これをしないと人間は、罪悪感情のスパイラルにはまってしまうのだ。
「あいつは…」
「あのひと言が…」
という怒りに心をからめとられて、前に進めなくなる。

マイナスのこだわりはプラスの感情を生み出さないのだ。
だから、「何もなかったことにしよう」。
そう思える人が、人生に底力のある人である。

『心をリセットしたいときに読む本』ぶんか社文庫

「スピーチでおもいっきりすべってしまった」、
「あんなこと言わなければよかった」、と悔いることがある。
しかし、口から一度でてしまったことは戻すことができない。

また、人から、「ひどく傷つけられることを言われた」、
「ひどい仕打ちを受けた」ことも、思い出せば出すほど、気持ちは萎(な)えるばかりだ。

くよくよ悩めば悩むほど、マイナスのスパイラルに陥(おちい)り、
プラスの感情は生まれてこない。
そんなとき、素晴らしく効く言葉が、「何もなかったことにしよう」だ。

「前後裁断(ぜんごさいだん)」という沢庵和尚の言葉がある。
前(過去)や後(未来)を断ち切って、ただこの瞬間、即今(そっこん)を生きろ、ということだ。

人は、過去を変えることはできないし、未来がどうなるか誰も分からない。
過去にとらわれ、未来を憂うことは、ただむなしく時間を浪費するだけだ。

「何もなかったことにしよう」は、前後を裁断し、力が湧(わ)いてくる言葉だ。



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