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2010.6.3

天使と靴屋さん

心に響く素敵なお話より…

いつもよく働く靴屋さんのもとへ、あるとき天使が乞食の姿になって現れました。
靴屋さんは乞食の姿を見ると、うんざりしたように言いました。

「おまえが何をしにきたかわかるさ。
しかしね、ワシは朝から晩まで働いているのに、家族を養っていく金にも困っている身分だ。
ワシは何も持ってないよ。ワシの持っているものは二束三文のガラクタばかりだ」

そして、嘆くように、こうつぶやくのでした。

「みんなそうだ。こんなワシに何かをくれ、くれと言う。
そして、今までワシに何かをくれた人など、いやしない…」

乞食は、その言葉を聞くと答えました。

「じゃあ、私があなたに何かをあげましょう。
お金に困っているのならお金をあげましょうか。
いくらほしいのですか。言ってください」

靴屋さんはおもしろいジョークだと思い、笑って答えました。

「ああ、そうだね。じゃ、100万円くれるかい」

「そうですか、では、100万円差し上げましょう。
ただし、条件がひとつあります。100万円の代わりにあなたの足を私にください」

「何?冗談じゃない!この足がなければ、立つことも歩くこともできやしないんだ。
やなこった、たった100万円で足を売れるもんか」

「わかりました。では、1000万円あげます。
だだし、条件が一つあります。1000万円の代わりに、あなたの腕を私にください」

「1000万円!?この右腕がなければ、仕事もできなくなるし、
かわいい子どもたちの頭もなでてやれなくなる。つまらんことを言うな。
1000万円ぽっちで、この腕を売れるか!」

「そうですか、じゃあ1億円あげましょう。その代わり、あなたの目をください」

「1億円!?この目がなければ、この世界の素晴らしい景色も、
女房や子どもたちの顔も見ることができなくなる。駄目だ、駄目だ、1億円でこの目が売れるか!」

すると乞食はいいました。
「そうですか。あなたはさっき、何も持っていないと言ってましたけれど、
本当は、お金には代えられない価値あるものをいくつも持っているんですね。
しかも、それらは全部もらったものでしょう…」

靴屋さんは何も答えることができず、しばらく目を閉じ、考えこみました。
そして、深くうなずくと、心にあたたかな風が吹いたように感じました。
乞食の姿は、どこにもありませんでした。
(中井俊巳)

『みんなで探したちょっといい話』志賀内泰弘(かんき出版)

我々は時として、自分の恵まれている境遇を忘れてしまうことがある。
かくして、愚痴、不平、不満、文句を言い募(つの)る。

「お金で買えないものはない」と豪語した人もいたが、そうはいかない。
この世の中はお金では買えないものばかりだ。

自分の身体もそうだが、子どもや、家族、友人、健康、若さ、空気…

病気になったとき、健康のありがたさを思う。
老人になったとき、若さの価値に気付く。
海にもぐったとき、空気のありがたさがわかる。

「有難う」とは、「有(あ)ることが、難(かた)い」こと。
すなわち、「めったにないこと」。

ほんとうは、我々は、めったにない貴重なものを天から授(さず)かっている。
どんなに大金を積まれても、売ることができない大切なものを。

この奇跡のような毎日に感謝を忘れてはいけない。
生きてるだけで有難い。



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