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2010.5.26

「がんばれ」という言葉

鎌田實(みのる)先生の心に響く言葉より…

日本は世界でも有数の豊かな国になったけれど、
今は八人に一人がうつ状態だという。
周囲を見渡しても、うつ病というほどではないけれど、
けっこうな数の人がうつ状態で苦しんでいる。

うつの人に一番いってはいけないのが、「がんばれ」という言葉。

日本人は「がんばる」という言葉が大好きだ。
だから、相手の気持ちを想像する前に、
口癖のように「がんばれ」と言ってきた。
また、自分も言われてきた。
だから、悪い言葉じゃないと思ってきた。

でも、心の中で葛藤(かっとう)している人にとっては、
その「がんばれ」がムチにもなる。

たとえば、進行したがんの患者さんのところにお見舞いに行ったとき、
つい「がんばってね」なんて口にしてしまう。
言う側は簡単。
なんとなく病室を出やすくなる。
だけど、言われたほうにすれば、
「俺のがんばりが足りないからよくならないのか」と、
ますます自分を責めてしまう。

もちろん、「がんばれ」という言葉で励まされて、立ち直る人もたくさんいる。
とはいえ、その言葉が、ときに悪いほうに作用することもある
と知っておくことが大事だと思う。

少なくとも、「がんばれ」と「がんばっているね」
という言葉の差に気がつくだけで、救われる人が出てくる。
「がんばっているね」という言葉は、自分のことを認めてくれる言葉。
魔法の言葉なんだ。

病気に苦しむ人にとって、受けとめてもらうことは、すごく大事。
「つらかった」とポロリと弱音を吐いたとき、
主治医が「つらかったでしょう、よくがんばってきましたね」
なんて言ってくれたら、生きる力がわいてくる。

『いいかげんがいい』集英社

親の介護などでヘトヘトになるほどがんばっている人が、
「がんばってね」などと励まされたら、辛くて泣きたい気持ちになる。
「これだけがんばっているのに、もっとがんばれと言うのか」、と。

これは、病気の時も同じ。

我々は、「もっともっと」、と更にがんばることを子どもの頃からしてきた。
親や先生からも言われ、自分でも努力してきた。
それが、つい人にも出てしまう。

失意のどん底にある人にかける言葉は、「がんばれ」ではない。
「辛かったね」、「がんばってきたね」という言葉だ。
相手の気持ちを認め、共感すること。

生きる力のわいてくる言葉を使いたい。



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