2010.5.20 |
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「ありがとう」は心の妙薬 |
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「お母さん、僕にありがとうと言ってくれた人がいた。
僕でも人の役に立つことができるんだね」と、
台所仕事をしている私に三十歳の息子が帰宅早々泣きながら言いました。
息子は卒業後、東京の大手の会社に就職し、
五年ほどで人間関係に疲れ果て、うつ病を背負って帰ってきました。
「死にたい、死にたい」が口癖の毎日が続いていました。
あの日は、ちょっと気分がよいから友人のところに行ってくると外出したのですが、
帰りに駅で目の不自由な人が、ややこしい乗り場でウロウロされているのを
見るに見かねて声をかけ、その方の乗り場に案内してあげたそうです。
帰ろうとしたら、その背中に、「ありがとう、ありがとう」を何回も言われたとか。
自分はこの社会で役に立たない人間で、
生きていても仕方がないんだと、死ぬことばかり考えていた息子が、
人様から「ありがとう」と言われ、涙が止まらなくなり、
泣きながら家に帰ってきたとのこと。
「よかったね、よかったね」と答えたわたしこそ、その人にお礼が言いたいのです。
あれほど心も身体も沈んでいた息子が、その方の「ありがとう」の一言がきっかけで、
少しずつ病気もよい方に向かい、今では病院通いをしながら仕事にも就き、
親から離れて独立した生活ができるようになったのですから。
「ありがとう」は、何にも勝る妙薬です。
(大阪府寝屋川市 金森千枝子 63歳)
『涙が出るほどいい話 第4集』河出文庫
『涙が出るほどいい話』は、「小さな親切」運動本部によせられた素敵な話を集めたものだ。
心が病んでしまったときは、誰かのお役に立つことをすると、心が軽くなるという。
心が傷ついたときは、「自分は生きていてもしかたない」とか、
「自分はダメな人間だ」とか、すべてのベクトルが、「自分、自分」と、内向きになっている。
反対に、誰かのお役に立つ、誰かを喜ばせる、と考えたとき、ベクトルは外に向かう。
意識が外に向かっているときは、自分の苦しみや、自分の痛みは忘れている。
人を喜ばせることを考えているときは、人は生き生きと輝く。
誰かに、「あなたがいてくれてよかった」、
「ありがとう」と存在を肯定されることは、最高にうれしいことだ。
逆に存在を否定されたときは、絶望的に悲しくなる。
「ありがとう」という言葉一つで、人の気持ちがよくなり、病気まで治るなら、
もっともっと「ありがとう」を多用したい。 |
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