2010.5.18 |
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番長風の女子高生 |
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「涙が出るほどいい話」の中の心に響く言葉から…
主人を失くしたショックで、心臓神経症とうつ病になっていた私。
ある日のこと。
病院へ行く途中にめまいがおこり、水たまりで転んで、
スカートを泥んこにしてしまいました。
このままでは、病院にも行けません。
朝のラッシュ時で、大勢の通行人の中からは、
くすくすと笑う声も聞こえ、持病の不安がつのり、
脈搏(みゃくはく)は一分間に百五十も打つほどで、
冷や汗がたらたらと流れ、気が遠くなりかけた時、
突然、番長風の女子高生が、「おばさん、これはきなよ」
と言って、私をガレージの陰に連れて行ってくれ、
紺色のひだスカートをスルリと脱いで、私にはかせてくれました。
「うち、このスカートきらいやねん。おばさん、返してくれてもいらないよ。
今度は気をつけなよ」と言って、ズタ袋みたいな物の中から短パンを出してはき、
靴のかかとを踏んで走り去って行きました。
私は、ただただうれしくて涙がこぼれ、ボーッとしてしまい、
名前を聞くのも忘れてしまいました。
きれいに着かざってさっそうと歩いている人たちが、
見て見ぬふりをして通りすぎるなか、
この言葉の荒っぽい女子高生の親切を受けた私は、
人は見かけによらないものだと、つくづく感じました。
自分の受けたご恩をほかの人に返したいと思いつつ、
今日もあの場所を通って病院に行く私です。
(奈良県五条市 中迫美智子さん)
『涙が出るほどいい話 1集』河出文庫
この本は、「身近におこった小さな親切」をテーマに、
全国から寄せられた「いい話」を、小さな親切運動本部が一冊にまとめたものだ。
5万通をこえるハガキから厳選した珠玉の話ばかりが載っている。
我々は、ともすると外見で判断する。
髪が茶髪だったり、服装がだらしない高校生を見ると、それだけで不良だと思ってしまう。
自らが辛い思いをしたり、挫折の経験をしている人は、
本質的な優しさがあったり、他人の痛みがわかることが多い。
満員の電車の中で転んだり、カバンを落として中身が道路に散乱してしまったり、
と満座の中での出来事に、誰もが「大丈夫?」と思う。
しかしそんな時、助け起こすなり、散らばった書類を拾ってやる人は少ない。
頭の中で思ってはいても、行動には結びつかないからだ。
現代人は、行動が鈍くなっている。
100の思いより、1つの行動が大事だ。 |
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