2010.3.28 |
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雨が降ったら、傘をさす |
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元経済紙記者の青野豊作(あおのぶんさく)氏の心に響く言葉より…
「時節を知りて、進むべき時に進み、退くべき時に退くを賢き人といふなり。
世渡りは傘の如くすべし。
運よき時は開き、運よからぬときはしぼめるがよし」
《商人生業鑑》
河村瑞賢(ずいけん)は
人の意表をつく行動をもって大をなした江戸初期の商人だが、
その意表をつく行動のウラにはつねに綿密な計画と用意があった。
一方、紀伊国屋文左衛門は
やはり人の意表をつく商法と幕府の権力者と結びつくことによって大をなしたが、
その商法は拡大一本槍で、つねに拡げるだけ拡げるというやり方であったため、
元禄の高度成長の終わりとともに没落した。
商人はとかく前進することしか考えないという習性をもつから、
退くべきときには退くということを自覚して行動せよ、というのが傘商法の考え方だ。
また、松下幸之助氏に
「企業経営のコツをひとことで教えてください」と質問したことがある。
すると、松下幸之助氏は、「そうでんな」といったあと、
ひと呼吸おいて私に逆質問をしてきた。
「きみ、雨が降ったらどうしますか」
当時すでに“経営の神様”といわれていた
松下幸之助氏から逆襲されるとは考えてもいなかった。
「私なら…傘をさします」
するとどうであろう。
松下幸之助氏は
「そうでんな、それでよろしい。それが企業経営のコツです」と答えた。
いささか禅問答めいて駆け出し記者には理解できない。
それで再度おそるおそるきいてみたら、つまりは企業経営者はいつ、
どのような経営環境の変化に直面しても対応できるよう、
常日頃から備えていることが大切だということであった。
雨が降ったら、傘をさせばよい。
しかし前もって傘の準備をしていないといざ雨が降った時にさす傘がない…。
これまた内部蓄積の大切さと、
どんな時代の変化にも即応しうる企業の体制づくり、
さらにいつも不況に備えた経営をすることの大切さを
傘にたとえてわかりやすく説いたことばであった。
『商人(あきんど)の知恵袋』PHP文庫
戦いは、進むときよりも退くときのほうが難しいという。
企業経営でも同じで、一本調子で進んでいるときは、
あまり苦労はいらないが、事業を縮小したり、
いったん店じまいするときの見極めが一番難しい。
「進むは易(やす)く、退くは難(かた)し」だ。
世の中は、好況があれば、不況もまた必ずある。
いくら意表をついた新商法であろうと、
必ずや誰かにマネされ、何年かたつと陳腐化する。
好況のときには、誰もが伸び、
多少の欠点や間違いはあまり問題にされない。
しかし、不況の時には、
その欠点や問題点が際立ち、実力の差となって表面化する。
「王道とは労(ろう)多くして益(えき)少ない道、
覇道(はどう)とは労少なくして益多い道」
という言葉がある。
王道を歩む人は…
退くことの大切さを知る人。
当たり前のことを、当たり前にやることができる人。
晴天のときに、雨が降り、嵐がくることを思い、
コツコツと労を惜(お)しまず備えることのできる人。
「雨が降ったら、傘をさす」
の言葉を肝に銘じ、日頃の努力を重ねたい。
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