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2010.3.21

ウソはエスカレートする

弘兼憲史(ひろかねけんし)氏の心に響く言葉より…

すべてのウソがいけないわけではない。
ときにはウソをついたほうがいいこともある。
ウソも方便だ。
ではどんなウソが許されて、どんなウソが許されないのか。

他人を救うためにつくウソは、多分許される。
時代劇によくある光景だが、追われた男が逃げ込む。
しばらくすると追手がやってくる。
「ここに男がこなかったか」
「来ません」
「ウソをつくとためにならねーぞ」
こんなウソはためになる。

しかし、自分を救うためにつくウソは、まず許されない。
そんなふうに思っておけば、
大きく間違わないのではないだろうか。
自分を救うためのウソはつかないほうがいい。
こういうウソはエスカレートする性質を持っている。
さりげなく経歴を偽っているうちに、
にっちもさっちもいかなくなり、
とうとう姿を隠してしまったなどという話もよく聞く。

自分を救うというよりも、
最初は身を飾るための軽いウソであった。
たとえば、その人は身を飾るために、
何人かの人たちに某有名大学出身だと言っていた。

周りは聞き流してくれていると思っていたのかもしれない。
ところが本人の知らないうちに、
話がめぐりめぐって、
同じころその大学の同じ学部を出たという人が現れてしまった。

その人は懐かしさも手伝って、「ゼミは何を取った?」とか
「○○教授を覚えているか?」などいろいろなことを聞く。
この人は身を守るため、ウソを積み重ねなくてはならなくなってしまった。
二年ほど休学していたとか、一時他学部に転部していたなどの類だ。
やがてもう、「あれは冗談」などと言える状態ではなくなってしまう。
ウソはエスカレートしていくのだ。

『誰も教えてくれない「仕事の作法」「職場のルール』新講社


許されるウソとは、他人を救うためのウソ。

これは、国と国との外交や戦争では、民を救うため、古来より行われてきた。
また、病気の告知など、人の気持ちを和らげるためのものある。

しかし、大半のウソは人の信頼性を失わせる。
どんなに仕事ができようが、たった一つの、
さもないことがウソだとわかったとき、不信感が出てくる。

身を飾ったり、見栄をはるための小さなウソが、身を滅ぼすことになる。

ある学会の席上、会長が「出身校を偽った」とある人に追及され、
反論できず、その場で会長を辞任する場面に居合わせたことがある。
外国の大学を出ていたと著書にも記され、
誰も疑いを持っていなかったので、本当にびっくりした記憶がある。

出身校を偽るのは、さびしい見栄だ。

人に少しでもよく思われたいと…
誰々が友達だ、と有名な人の名前をあげる人
人から聞いたことを、さも自分が考えたように言う人
段も持っていないのに、空手や剣道何段だったとか言う人
自分の洋服の値段や、身長体重まで見栄をはる人

結婚したり、付き合って何年もしてから、
相手がウソをつく人だとわかったとき、不信感が増す。
ウソは、そのときは何でもなくても、
時間の経過とともに抜き差しならない大問題になることがある。


何事も、自分のことはすべて控えめに言うほうが粋だ。
自慢や見栄をはるのはよして、素(す)の自分で勝負したい。



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