2010.2.22 |
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A子ちゃんのクラス対抗リレー |
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福岡県にある南蔵院(なんぞういん)の
林覚乗(はやしかくじょう)和尚の心に灯がともる言葉より…
ジャーナリストで、作家でもある大谷昭宏さんが、
読売新聞の記者をされていた頃「窓」という欄を担当しておられた。
その欄にこんな内容の記事が載りました。
広島の女子高生のA子ちゃんは生まれた後の小児麻痺が原因で足が悪くて、
平らなところでもドタンバタンと大きな音をたてて歩きます。
この高校では毎年7月になると、プールの解禁日にあわせて、
クラス対抗リレー大会が開かれます。
一クラスから男女二人ずつ四人の選手を出して、
一人が二十五メートル泳いで競争します。
この高校は生徒の自主性を非常に尊重し、
生徒たちだけで自由にやるという水泳大会で、
その年も、各クラスで選手を決めることになりました。
A子ちゃんのクラスでは男二人、女一人は決まったのですが、
残る女一人が決まらなかった。
そこで、早く帰りたくてしょうがないそのクラスのいじめっ子が、
「A子はこの三年間体育祭にも出ていないし、水泳大会にも出ていない。
何もクラスのことをしていないじゃないか。三年の最後なんだから、
A子に泳いでもらったらいいじゃないか」
と意地の悪いことをいいました。
A子ちゃんは誰かが味方してくれるだろうと思いましたが、
女の子が言えば自分が泳がなければならないし、
男の子が言えばいじめっ子のグループからいじめられることになり、
誰も味方してくれませんでした。
結局そのまま泳げないA子ちゃんが選手に決まりました。
家に帰りA子ちゃんは、お母さんに泣いて相談しました。
ところが、いつもはやさしいお母さんですが、この日ばかりは違いました。
「お前は、来年大学に行かずに就職するって言ってるけど、
課長さんとか係長さんからお前ができない仕事を言われたら、
今度はお母さんが『うちの子にこんな仕事をさせないでください』
と言いに行くの?
たまには、そこまで言われたら
『いいわ、私、泳いでやる。言っとくけど、うちのクラスは今年は全校でビリよ』と、
三年間で一回くらい言い返してきたらどうなの」
とものすごく怒ります。
A子ちゃんは泣きながら、二十五メートルを歩く決心をし、
そのことをお母さんに告げようとしてびっくりしました。
仏間でお母さんが髪を振り乱し、
「A子を強い子にしてください」と必死に仏壇に向って祈っておられた。
水泳大会の日、水中を歩くA子ちゃんを見て、まわりから、
わあわあと奇声や笑い声が聞こえてきます。
彼女がやっとプールの中ほどまで進んだその時でした。
一人の男の人が背広を着たままプールに飛び込み
A子ちゃんの横を一緒に歩き始めた。
それは、この高校の校長先生だったのです。
「何分かかってもいい。先生が一緒に歩いてあげるから、
ゴールまで歩きなさい。はずかしいことじゃない。自分の足で歩きなさい」
と励まされた。
一瞬にして、奇声や笑い声は消え、みんなが声を出して彼女を応援しはじめた。
長い時間をかけて彼女が二十五メートルを歩き終わったとき、
友達も先生もそして、あのいじめっ子グループもみんな泣いていました。
『心ゆたかに生きる』林覚乗・西日本新聞社より抜粋転載
弱いもの、ハンデのある人を集団でいじめる。
自分に火の粉がかからないように、見て見ぬふりもする。
人として、恥ずべきことは、卑怯なことをすることだ。
それは、藤原正彦先生のいう、惻隠の情をなくすることであり、
他者の不幸に対する鈍感さだ。
弱者や老人への、いたわりや、
思いやりの気持がなくなったとき、人は人ではなくなる。
ただ生きているだけの、獣(けもの)だ。
母の強さと優しさ、校長先生の思いやりの深さ…
真の意味での、優しさと思いやりは、ただ手助けすることではなく、
相手を一人の人間として尊重し、自立を見守ること。
強さを持った、思いやり深い人でありたい。 |
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